Wagamama

 風邪を引いた。理由は分からんけど、サムからは「お前がみょうじさんのこと考えすぎたんが原因」とかそない訳分からんこと言われた。
 いや、もし万が一そうやったとして、同じタイミングで風邪引いたサムは何やの。シンクロか? アホらし。俺のがみょうじさんのことぎょうさん考えとうわ。

「あー……みょうじさん元気かな」
「うわ、きっしょ」
「……」

 確かに、今のはキモかった。頭がまわらんせいで思うたことすぐ口にしてしまう。サムも2段ベッドの上におるの忘れて油断してた。自分が恋する乙女みたいでやばい。

「おい、ツム。誰か来てる」
「サムの客やろ。お前が行けや」
「無理。俺体しんどい。それにツムのが下やん」
「はぁ? なにその理論」
「ゲッホゴッフォ」
「いやその咳無理あんで」

 ワザとらしい咳出して会話するん拒否されたせいで俺が重たい体起こすハメになってしもうた。双子で風邪引くとかほんまにだるい。つーか誰やねん。居留守使ったろかな。

「うーぃ」
「え、宮くんも風邪やったん?」
「みょうじさん!?」

 マスクを少しだけずらして面倒くさいという態度を全面に押し出して対応した玄関先。そこには想定外の人物がおって目を見開く。さっき頭に思い浮かべたせいで夢でも見てるんやろうか……?
 ここ最近お決まりと化したパターン。そしてそれは嬉しくも現実なんやってことを俺は数こなしたことで学習しとう。これは、ほんまもんのみょうじさん。

「治くんお休みやったからプリント、持ってきてん」
「あぁ……ナルホド。サムの為にありがとう」

 ほんまにサムの客として来たのがおもんないけど。拗ねた気持ちでプリントを受け取るとみょうじさんが「双子って体調もシンクロすんのかなぁ?」と不思議そうな顔つきで見上げてくる。どうやろうな。風邪って双子とか関係あらへん気もするけど。

「ほんなら私はこれで」
「あ、みょうじさん待って」
「?」
「おかゆの作り方、分かる?」

 すぐさま帰ろうとしたみょうじさんを呼び止める。勿論、腹が減ったっていうのは本当。それにおかゆの作り方が分からへんのも本当。あと、みょうじさんとまだ一緒に居たいっていうのも本当。俺、めっちゃ乙女やん。きしょ可愛ええ。

「分かるけど……」
「俺分からへん。せやから作って?」
「え、でも……勝手に家あがるんは……」
「そんなん俺が許可するから。な?お願い」

 みょうじさんも風邪っ引きのワガママや思うて付きおうてくれへんかな。とか欲張り出してみたら「分かった……」て渋々了承してくれるみょうじさん。風邪の引き甲斐もあったもんや。



「んまい! 最高!」
「ただ水で煮ただけやで?」
「いや、マジでウマい」
「そう? そんなら良かった」

 みょうじさんが作ってくれたおかゆはほんまに美味い。味付けとかそんなんは至ってシンプルやけど、みょうじさんが作ってくれたってだけでトクベツ。ワガママ言うて良かった。てか、好きな子が俺の家におるとかちょっとヤバない? 体調万全やったらヤバかったかも……あでもみょうじさんに嫌われそうやからそれはナシ。

「治くんにも持って行ってくる」
「あ? ええよ、アイツ寝てたし」
「そうなんや? やったら「ツム、騒がしいけど誰か来てんの……てみょうじさんやん」……治くん!」
「チッ!」

 折角2人きりやったのに、邪魔しやがって……そんな気持ち込めて放った舌打ちを片割れはニヤニヤした表情で受け止める。やめろ、顔が溶けそうになってる。きしょい。

「あーもうツム。何も出さんとあかんやろ」
「は? 茶なら出してんで」
「いやいや。ちょお待って」

 そう言って姿を消したサムが再び現れた時に手に持っとったんは俺らのアルバムで。一体何を……と思うた俺を無視してみょうじさんが「うわ! 見てみたい!」とはしゃぎだす。そうしてサムからみょうじさんへと簡単に渡ったアルバム。

「んなら俺はベッドで休むから。後はごゆっくり」

 ツム、気張りやとかムカツク言葉を残して部屋に戻ってったサム。後追ってどついたろか思うたけどみょうじさんが「見てええ?」てワクワクした顔して聞いてくるから、「ええよ」って答えながらみょうじさんの隣に腰掛ける。

「やっぱし顔付き似てんなぁー。うわ、寝相シンクロしてる! 可愛ええ」
「せやろ?」

 アルバム見ながら2人してはしゃぐ。どないしよ、滅茶苦茶楽しい。けど、体怠い。でももっと一緒におりたい。

「あ、やっぱ2人とも黒髪やん……って宮くん? 大丈夫?」
「おう……ヘーキ」
「いや顔赤いで? また熱上がってんとちゃう?」
「そんな柔やない……」
「あかん。ベッド行こう?」

 それみょうじさんが言うの反則。とかボーっとする頭で思うけどその言葉に答える気力もなくなってしもうてる。やばい、みょうじさんと一緒におるんが楽しくて興奮したせいや。ダサいんは俺も同じやな。

「ごめんな、私無理させたな?」
「そんなことない……」
「アイス枕ある?」
「冷凍庫の中……」
「ちょっと開けるな?」

 ソファから離れようとするみょうじさんの手を掴む。行かんで。せっかく一緒におれるんや。まだ一緒におりたい。

「ちょっ、宮くん……」
「俺、他のとこはちゃんと出来へんけど……バレーだけは真面目に頑張るから……俺のこと、嫌いにならんといて……」
「……分かった、分かったから……宮くん、ちょお離して?」
「嫌や……みょうじさんおらんなるやん」
「宮くんっ」
「どこにも行かんで……みょうじさん……」

 もういっそのことみょうじさんも風邪引いて一緒に休んでいったらええのに。そんなガキみたいなこと思いながら俺の体はみょうじさんの体に凭れてった。



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