視えてしまう

 記者会見があった1月28日。作戦室でその様子を見ていた私は記者会見の流れに憤慨した。なんなら会場に殴り込みに行ってやろうかとも思った。「みょうじさんが行ってどうこうなるわけじゃないでしょ」と菊地原くんに当たり前のことを言われたけれど、それでも三雲くんが悪者になるのは許せない。

「ふん……アイツも中々肝が据わっているな」
「え、あ……み、三雲くん!?」

 テレビに昨夜目を覚ましたと聞いた三雲くんの姿が映し出され、思わず目を見開いた。忍田本部長たちの慌てぶりからみても三雲くんが出てくるのは想定外だったんだろう。沸き立つ記者が向ける敵意ある質問に対して、三雲くんは堂々と受け答える。

「あー、遠征のこと言っちゃったよ」

 菊地原くんがぶうぶうと文句を垂れ、記者たちは矢継ぎ早に質問を紡いでいた口をあんぐりと開けている。“取り返しに行く”というワードはあまりにも衝撃的だったらしい。

「え? 遠征って言っちゃだめなんですか?」
「近界遠征は機密事項となっている。……が、今ので流れが変わったな」

 慌てて風間さんに事情を訊くと遠征自体機密事項となっていることを聞かされ、太刀川はよくもまぁ私にあそこまでペラペラと遠征のことを話したもんだと呆れすら湧く。

 結局、記者会見では三雲くんが出した“近界への遠征”が大きなネタとなり、それ以上の炎上は起こらずに収束となった。

「メガネ、あんだけ大きいこと言っちゃったけどどうするんですかね。自分はまだB級のくせに」
「三雲くんたちなら「三雲たちならば大丈夫だろう。2月頭からはランク戦も始まるしな」
「そういえば大砲の子とクガとチーム組むんでしたね」

 そんなのズルイよねとまたしても小言を言う菊地原くんと、それを窘める歌川くん。風間隊はいつも通りだ。誰かが不安に思っている時はそれとなく察して、フォローをくれる。でも、今私の気持ちを察してフォローをくれる人は誰も居ない。

 当たり前か。今の記者会見を見て心がモヤモヤしてるなんて、誰も思わないだろう。……自分の中に湧き上がる気持ちを自覚すればするほど居心地が悪くなる。三雲くんの活躍を心から喜べていない自分が嫌になる。



「やーなまえさん」
「迅くん。大規模侵攻、お疲れ様でした」
「労いの為にお尻触らして……って嘘だよ。顔怖いから、やめて。お願い」

 2月1日。今日からB級ランク戦が始まり、その結果は防衛任務に当たっていた風間隊にも風間さんを通して入って来た。

「玉狛第2、初日から凄いね。千佳ちゃんと空閑くんの2人だけで8点もぎ取ったんでしょ? さすが超新星」
「やあやあどうもどうも」
「迅くんが照れんな」

 その防衛任務終わり、またしても中庭で迅くんと鉢合わせその身内バカっぷりに呆れる。

「三雲くんはまだ万全じゃないカンジ?」
「まぁね。記者会見で頑張っちゃったから」
「あー。あれね。三雲くんさすがだったよ。ウチの隊長も褒めてた」
「……今俺が選択してる未来ってさ、正解なのかな」
「どういう意味?」
「……なまえさんにも色々と申し訳ない選択になってるのかもなぁって。ちょっと思ってね」
「なんかよく分かんないけど。別に迅くんが選ばせるんじゃなくて、その人達が自分で選んでるんでしょ? その人が選んだ選択にまで迅くんが責任感じる必要なんてなくない?」
「俺がなまえさんと遊真達を早めに引き合わせたことで、なまえさんがメガネくんに嫉妬してることも?」
「なっ……!」

 的確に私の気持ちを言い当てる迅くんに言葉が詰まった。そう、私は三雲くんにずっと、嫉妬をしているのだ。……なんて大人気ないんだろうか。

「それは……私が、大人気ないからだよ。別に迅くんが責任感じることなんてない」
「……うん。なまえさん達は大丈夫そうだ。揺らいでないね。良かった」
「何、どういうこと?」
「一応、視える者の務めとして視とこうと思ってね」
「やっぱり迅くんって意味不明」
「はは。実力派ですから」

 んじゃ、俺も今日は帰るよ。そう言って踵を返す迅くんに慌てて自販機にお金を入れてコーヒーを買い迅くんに渡す。

「私、風間さんからたくさん褒めてもらえたんだ。お酒入れた状態だったけど……。迅くんが何か言ってくれたんでしょ? ありがと。それ、お礼!」

 押し付けるように渡したコーヒー缶を見つめた後、ふっと力が抜けたように笑う迅くん。

「出来ればホットが良かったかな」
「あ……ご、ごめん! 慌てて買っちゃったから……」
「あはは、冗談。ありがたく頂くよ。代わりに俺はぼんち揚げをあげよう」
「え、いらない」

 拒否る私に強引にぼんち揚げを渡してくる迅くんはいつも通りだ。どこか変だなと思ったけれど、この感じならもう大丈夫かな?

「なまえさんを励まそうと思ったのに、俺が励まされちゃったね。ありがとう、なまえさん」
「うん? いえいえ――で良いの?」

 ぼんち揚げは風間さんにもお裾分けするようにと念を押して帰って行く迅くんの背中を見届け、私も作戦室へと戻ることにする。なまえさん達は大丈夫って、どういう意味なんだろう……?

prev   top   next
- ナノ -