いつかこの恋が終わる瞬間を夢見ている
 あれからクラス替えをして俺となまえは違うクラスになった。結局、俺となまえが付き合っていたのは高2の短い期間だけで。なんとも脆く、短い恋人期間だったんだろう。それでも、俺が過ごしたあの時間は紛れもなく楽しい時間だった。

 誰かが付き合うと、瞬く間に広まるのと同じ様に、誰かが別れると、それも瞬く間に広まっていく。初めのうちは俺となまえが別れた事が知れ渡るとなまえは後ろ指を指されていたし、俺は俺で一時期は収まっていた告白を良くされる様になった。……どうして俺がなまえ以外のヤツと付き合わないといけない? 俺が好きなのはずっとなまえなのに。

 クラスが別れても、別れてからの期間の方が長くなってしまっても、俺の気持ちはずっとなまえに向いたまま。もう1度なまえのあの照れた顔が見たい。笑った顔が見たい。でも、なまえを視れば確実に誰かの隣で笑うその姿が濃くなっていた。

 だから、これで良い。

 遠くからなまえを見つめては、視線を逸らす。そんな風にして、高校生最後の1年は終わりを迎えようとしていた。



 学生であるからには、決められた時間には学校に来なくてはいけない。本当はもうここに来たって何の意味も無いのだが。それでも今日も興味の惹かれない授業を聞き流して、放課後を迎える。ボーダーに行くか。そう思いはするものの、どうしても腰が上がらない。だからといってここに居続けても何も無い。あぁ、俺は一体何の為にここに居るんだろう。

 窓の向こう側をぼーっと眺めても、特に何の変化も無い。なまえは今日1日どんな日々を過ごしたのだろうか。あれから、いじめを受ける様子は無いように見受けられる。……でも、俺はなまえの近くには居てやれないから、本当の所が分からない。今のクラスでも良い様に使われてはないだろうか。……なまえは人が良いから。俺が守ってやりたい。

「……なまえ」

 愛おしいその名前を空に向けて放つのと、教室の照明がパチンと音を立てて光るのはほぼ同時だった。

「悠一くん……」
「……あ」

 遠くから見るだけにしていたその姿が今、目の前に居る。今しがた思い焦がれていたその人物が急に現れた事に俺は目を瞬かせるしかない。どうしてなまえが俺のクラスに?

「ひ、久しぶりだねっ、今日はこれからここで卒アル作成なんだ。悠一くんも作成委員……な訳無いよね」
「……その作成委員って、なまえが選んだの? それとも、選ばされたの?」

 第一に気になったのはそこだった。また、調子の良い言葉を並べられて、その選択肢を選ぶ羽目になったんじゃないだろうか。なまえはこれから先ずっとそうやって生きていくのか。あぁ俺が側に居れたら。なまえを助けてやれるのに。それが出来ないもどかしさで胸が張り裂けそうになる。なまえを守ってあげたい。なまえ、俺はやっぱり。

「すまない、みょうじ! 先生と話してたら遅くなった!……ん? 迅? 珍しいな、お前がこんな時間まで学校に居るのは!」
「……嵐山」
「もしかして、取り込み中、だったか?」
「いいや。大丈夫だよ。俺もう帰るから。じゃあな、嵐山。またボーダーで」
「あぁ! また手合わせを頼む」
「ゆ、悠一くんっ」
「じゃあね、なまえ」

 完全に俺の思い上がりだった。俺が居なくても、なまえはちゃんとやれている。そうか、今は嵐山と同じクラスだったっけ。アイツが居るクラスなら前みたいな事にはならないだろう。そっか。それでなまえの未来に笑顔が増えたのか。やっぱり嵐山は凄いな。良かった。なまえの未来に俺が居なくても、大丈夫。

「悠一くんっ! ありがとう!」
「……っ」

 でも、なまえ。俺の未来にはやっぱりなまえが必要だって思ってしまうんだ。俺はずっと、なまえが好きで居続けてしまうのだろう。でも、なまえの未来に俺は居ない方が良い。だから、遠くからなまえの事を想い続ける。それだけはどうか、許して欲しい。この恋がいつか終われば良いのに。今の俺はそれを夢見る事にしか出来ない。全然、現実になんて、出来そうも無い。

 好きなんだ、なまえ。

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