日陰で育った花は黒い

 家に帰った私を待っていた琴音は目と鼻を真っ赤に腫らして、一生懸命嘘を並べたてていた。“鈴音のこと応援してる!”なんて言葉、どれだけの想いを潰さないと出てこないかなんて想像しなくても分かるから。どうすれば良いか分からないまま、曖昧に言葉を濁してしまった。

 芯があって羨ましいと真っ直ぐに褒めてくれたのに。結局ズルをして作り出していた虚像でしかない私は、琴音の為を想って身を引くという決断を出来ないまま。……本当の私はこんなにもズルい。



「鈴音、体育館いつになったら貸してくれんのさ」
「及川……昨日はゴメン」
「ほんとだよ。俺、久々あんな全力疾走したからね?」

 朝練の終わり頃、先に練習を終えた及川が顔を覗かせに来た。琴音を頼んだことを謝ると、及川はあっけらかんとした口調で躱してみせた。……何にもなかったハズないのに。及川は琴音と違って嘘を吐くのが上手だ。

「じゃあお礼に体育館を」
「それとこれとは話が別」
「……テキビシィ」

 及川も分かった上で言ってるし、わざとに普段通りの会話を持ち掛けているのも分かる。こういう所に、どうしようもなく惹かれてしまうんだろう。

「てかさぁ、別に貸してもよくない?」
「茉奈……」
「だって朝も夜も鈴音1人じゃん」
「でも、インハイ予選近いし」
「近くても鈴音だけが頑張ったって意味ないし」
「じゃあみんなでやろうよ!」
「どうせ敗退するの分かってるのに、そんな意味のないことしないでしょ普通」
「……なんで、やってもないのに言えんの」
「逆に何年もやって来て分かんないの?」
「茉奈っ!」

 茉奈の言う通り。私が主将に選ばれる前から女バレは抜け殻みたいだった。だけど、私や茉奈たち3年生にとっては今年が最後。その最後の年くらい足掻いてみたいって思わないの? なんで。どうして?

「主将になったからってそんな張り切られても。こっちは気持ちついて行けないし。無理」
「茉奈!」

 ここ最近、ずっとこの体育館には私の声ばかり響いていた。今だって私1人必死になって、他の部員たちは茉奈と同じように目線を逸らして体育館から姿を消してゆく。……なんで、こんなにもうまくいかないんだろう。

「えっと……鈴音? その……えっと……」
「ごめん及川。体育館は貸せないから」
「あっうん。大丈夫です。ね、ねぇ、鈴音」
「授業。始まるよ。及川も早く準備しな」

 好きな人にまで八つ当たりしちゃうだなんて。なんかもう、なにもかもが辛い。苦しいよ。

- ナノ -