シュガーオーバー

 ここ数日間で三ツ谷くんの誕生日祝いも終え、ワンピース作りも順調に進んでいる。三ツ谷くんの衣装作りも順調そう。三ツ谷くんの新しい衣装は黄色と青色の小さめの浴衣2着。恐らくルナマナちゃん用だろう。この浴衣を着た2人は可愛いだろうなぁ。

「あ、そうだ。これ、ルナとマナから」
「え?」

 こないだの出来事からマナちゃんはすっかり私に懐いてくれたらしく、家に帰ると「次いつ会える?」と煩いと三ツ谷くんが嘆いてた。そして、それを聞いているルナちゃんも「ルナも!」とねだっているとも。
 こんなに懐かれて、会いたいと言われるのは私だって嬉しい。今度遊びに行こうかなと考えている時に渡された“なまえお姉ちゃんへ”と書かれた手紙。

 ワクワクしつつ手紙を開くと“しょうたいじょう”とカラフルな鉛筆で書かれた文字が飛び込む。

―日づけ:6月19日日よう日 ばしょ:ルナとマナの家

「昨日一生懸命書いてたけど、招待状か」
「はは、可愛い招待状貰ったからには絶対行かないとですね」

 可愛らしい文字や絵に思わず顔がニヤける。私も、ルナマナちゃんに会いたい。何かおやつ持って行こう。

「その日俺、マイキー達と出掛けんだよなぁ」
「そうなんですね」
「あぁ、ごめんなみょうじさん。アイツらのことお願いできるか?」
「勿論です! 楽しみにしてます!」

 私も2人の招待状に返事を書き、三ツ谷くんに言付ける。ルナマナちゃんも喜んでくれると良いなぁ。

「あーなんか良いなぁ」
「ん?」
「安田さんといい、ルナマナといい。俺よりみょうじさんと仲良くなってる気がする」
「えぇ?」
「たまには俺とも仲良くしてくれよ?」
「っ、そ、れはっ」

 思ってもみなかった言葉を言われ、何と返せば良いかグルグルと頭を回転させていると「ぶはっ! みょうじさん顔すげー」とおかしそうに笑う。……三ツ谷くんと仲良くしたいのは私の方だから!



「いらっしゃいませ!」
「今日はお招き頂きありがとうございます」

 日曜日。作ったクッキーを持って家に行くと勢いよく出て来た2人に抱き着かれる。今日はこないだみたいに尻もちをつかずに済んだけど、やっぱり2人はパワフルだ。

「三ツ谷くんはもう出たんだ?」
「うん! 遠くまで行くんだって! ちゃんとなまえお姉さんの言うこと聞くんだぞ! って言ってた!」
「そっか。あ、クッキー持って来たから後で食べよ?」
「わぁ! うさぎさんクッキー!」

 ルナマナちゃんに歓迎されながらお邪魔した家。そこにはこの前は無かった東卍のみんなと映った写真が飾ってあって、それをまじまじと見る。“ハッピーバースデー”ってことは先週の日曜日か。三ツ谷くん、すっごく嬉しそう。

「あれ、この浴衣……」

 写真の近くにルナマナちゃんのとは違った大きさの浴衣があるのを見つけてそれに触れる。赤ベースの生地は大きな花が咲いたレトロモダンなデザイン。可愛くも大人な浴衣。でも、明らかに女性用……。

「なまえお姉ちゃんこっちー!」
「あ、はぁい!」

 誰の為の浴衣なのかそれが凄く気になったけど、ルナマナちゃんに呼ばれてそちらへと向かう。今日は2人と思いっきり遊ぶ為に来たんだ。変に傷付いた顔浮かべてちゃいけない。



 家で遊んだのに、ここまで疲れることって出来るもんなんだ……。あれからルナマナちゃんと色んな遊びをして、日が暮れる頃には畳に寝そべってしまう程だった。私が小学生の頃ってこんなにパワフルに遊びまわってったっけ? 今日は良く眠れそうだ。

「マナもー! なまえお姉ちゃんと寝るー!」
「じゃあルナも!」

 寝そべった私の両脇にルナマナちゃん添い寝してきて、3人で小さな川の字が出来上がる。しかも本当に2人ともすやすやと眠りだすので動こうにも動けない。……あ、やばい……眠気が……。
 クタクタだった体で横たわればすぐさま睡魔が襲ってくる。しかも両隣からは規則正しい寝息。知らない間に私の意識も夢の世界へと連れ去られていった。



 意識が現実へと戻ったのは鼻腔に良い匂いが漂ってきたからだった。その匂いに釣られ、慌てて目を覚ますとそこには三ツ谷くんの姿。

「わ、私っ! えっ、今何時……っ」

 ルナマナちゃんは既に起きて机でお絵かきをしている。どうしよう、他人様の家で勝手に寝るなんて……。どんだけ厚かましいんだ。

「ルナマナが付き合わせたんだろー? ほんと色々ごめんな? もうちょいでご飯出来るから、食ってけよ」
「いえ、そこまでして貰う訳にはっ」
「いーからいーから。ルナ、皿の準備。マナは机片付けて」

 ルナマナちゃんに指示を出す三ツ谷くんは完璧お兄ちゃんの顔で、その流れで「みょうじさんは座って」と言われ思わず「はい」と応え机の前に腰をおろす。待って、私涎とか寝ぐせとか、大丈夫……? え、てか寝顔見られた……? わ、えっ、えーっ……。

「帰ってきたらルナマナと一緒にみょうじさんが寝ててビックリしたわ」
「すみません……っ、」
「いやでも気持ち分かる。コイツらと遊ぶのまじで体力要るもん。ほんとごめんな?」
「いえっ、凄く楽しかったです!」

 湯気の立つご飯やみそ汁を食卓に並べ、一緒に手を合わせて食べるご飯。私はどうして三ツ谷くん家でご飯をご馳走になっているんだろう……。想定外の出来事に脳内パニックは収まらないが、三ツ谷くんが作ってくれたご飯はとても美味しい。

「ルナ、マナ。今日は楽しかったか?」
「うん! なまえお姉ちゃんが作ってくれたクッキーがね、すっごく美味しかったんだよ!」
「へぇ! クッキー。お昼に食ったのか?」
「うん! うさぎさんとクマさんだった!」

 ねっ! と顔を向けてくるマナちゃんに頷きを返し、「あ、三ツ谷くんもあとで良かったら」と言葉を続ける。甘いの好きか分からなかったから砂糖少なめにしたやつ。でもお菓子とか好きなのかな……。

「まじ!? 俺にもあんの!? 嬉しい! ありがとな、みょうじさん!」
「い、いえっ」

 良かった。その心配は杞憂そうだ。あとはお口に合うと良いけど。……あぁ、こんなに喜んで貰えるのなら、三ツ谷くんの誕生日プレゼント、ちゃんと渡せば良かった。もう今更過ぎるけど。

「あ、そうそう。8月3日に武蔵祭りあんじゃん? みょうじさん誰かと行く約束とかしてる?」
「武蔵祭りですか? いえ、特には」
「じゃあ良かったら一緒に行かね?」
「えっ!」
「ルナとマナも一緒だけど」

 全然良い! ルナマナちゃん良い子だし! それに三ツ谷くんとお祭り……! どうしよう、すっごく嬉しい!……にしても随分先のお祭りなんだなぁ。

 少し早いお誘いを少し不思議に思うと、三ツ谷くんが「それまでにはアレ、仕立てるから」とミシンを指さす。

「みょうじさんが良かったらだけど。着てくれないか?」
「えっあれ、私用だったんですか!?」
「おう。赤が好きって言ってたから赤メインにしてみたんだけど。どう?」
「すっっごく可愛いですっ!!」
「おー、すげー溜めた」

 どうしよう。誰の為のなんだろうと思ってた浴衣が私の為のだったなんて……。嬉しすぎて泣きそう。

「なまえお姉ちゃんどうしたのー?」
「三ツ谷くんが作ってくれたご飯の美味しさに感動してた」
「あはは、大袈裟」

 ううん、全然大袈裟なんかじゃない。全部、泣きたいくらいに嬉しいんだ。
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