尋問、白状。
 1日見学をしていて思ったことがある。それは、マネージャー業だって中々ハードだってこと。選手のドリンクを作ったり、備品の管理をしたり、ビブスを洗ったり、スコアを付けたり、監督の補助に付いたり。そして何よりも恐怖に感じたのが流れ弾。豪速球が一瞬にして目の前に来るから、ずっとヒヤヒヤしてないといけない。体育の時に見る男子の球よりも速いスピードで目の前に来た時は、何度も“終わった……”とこの世の終わりを悟った。ただ、それは杞憂に終わり、どの球も直撃することはなかった。部員がレシーブしてみたり、雀田先輩と白福先輩が防いでくれたりして守ってくれたおかげだ。目の当たりにした状況で我が校のバレー部は全国大会常連校だったことをもう1度思い出した。
 そして、コート外でも楽しそうだった木兎先輩はコートの中だとそれはもう水を得た魚のように生き生きと楽しそうに走り回り、目を輝かせてボールを追っていた。その姿は見ているこっちも楽しい気持ちへと導いてくれるようで、見ていて飽きない存在だった。ただ、流れ弾が来た時に1番“死んだ……”と思うボールを放つのも木兎先輩だった。そして、そんな木兎先輩をうまくリードしているのが“セッター”というポジションを担っている赤葦先輩。赤葦先輩はコートの中でも変わらず冷静に、木兎先輩やチームメイトをよく見て誰にボールを上げるのがベストかを判断していた。チームを引っ張っていくのが木兎先輩だとしたら、その木兎先輩をうまくコントロールしつつ、フォローをしているのが赤葦先輩って感じだったと思う。

「今日1日どうだった? マネ業」
「大変でしたけど、すっごく楽しかったです!」

 放課後がこんなにもあっという間に過ぎたのは初めてかもしれない。それくらいに充実した時間だったと、仄かに暗くなった空を尻目に雀田先輩と白福先輩と一緒に用具室で指示された場所に道具を片付けながら思う。

「それなら良かった〜。ほら〜、木兎とか結構野蛮だからさ〜。嫌だなぁ〜って思われたらどうしようって思ってたの〜」
「そんなことは全く! 雀田先輩も、白福先輩も優しく教えてくれたし、流れ弾も。ありがとうございました」

 頭を下げると2人は「そんなのは全然」と笑ってみせる。あれくらいは日常茶飯事ということなのだろう。事も無げに言ってのける姿に憧れの眼差しを向けると「あ、てかさ」と雀田先輩が言葉を発する。

「私たちのこと、下の名前で呼んでよ。そっちのがお近づきになれた気がして嬉しいし」
「良いんですか?」
「ちょっと呼んでみて? 雪絵先輩〜って」
「雪絵先輩、かおり先輩……」
「うんうん! そっちのが私達も嬉しい!」
「じゃあ……お言葉に甘えて。明日からもまたよろしくお願いします!」

 変な形で訪問したにも関わらず、優しく迎え入れてくれたお二人には感謝だ。まさかバレー部のマネージャーになる日が来るとは思いもしなかったけれど、今となってはあの時木兎先輩に誘ってもらって……というか、勘違いしてもらって良かったと思う。

「ねね、てかさ、なまえちゃんに質問しても良い?」
「はい、なんでしょう?」

 口角をニヤリと上げたかおり先輩から「なまえちゃんってさ〜、赤葦のこと好きでしょ?」といきなり核心をついた質問を向けられ、思わず咽てしまった。「な、なんでですか……?」咽ながら返した言葉は正解だと言っているようなもの。その態度を見たかおり先輩は口角をさらに上げてみせる。

「赤葦のこと、ずーっと目で追ってたよ」
「あ〜それ私も思った〜。赤葦がトス上げる度にうっとりしてたよね〜」
「そ、そんなに分かり易かったですか……?」

 出会って数時間のうちに私の恋心がバレてしまった気恥ずかしさに顔を俯かせてしまうけれど、2人はそんな私の態度を見てさらににんまりとした顔つきに変わる。

「分かり易いもなにも……」
「多分、気付いてないの木兎くらいじゃないかな〜?」
「えっ、そんなに!? ですか?」
「逆になまえちゃんあれでバレないとでも思ってたの?」
「一応マネージャー業をしっかりしなきゃと思って、意識して意識しないようにしてたつもりだったんですけど……」
「うん。それも伝わってきてた」
「赤葦がこっちに視線向けたら慌ててズラしてたよね〜。でも、逆にそれが怪しくって〜。なまえちゃん可愛いなぁ〜って思ってたんだよ〜」

 かおり先輩や雪絵先輩から指摘される自分の行動の数々。どれもに心当たりがあり過ぎて、穴があったら本気で入りたい。掘ってしまうか? いっそのこと。いや、その前に。バレてしまったのならきちんと明かしておくべきだ。バレーに対して純粋な気持ちで入部したわけではないと知られた今、私の入部を受け入れてくれるかどうかを知る必要だってある。

「実は私、赤葦先輩に一目惚れしまして……。それで、この体育館を使って練習をする部活の部員だってことが分かったので探し回ってたらマネージャーとして入部って形になって」
「木兎グイグイだったよね」
「こんな不純な動機で入部してすみませんでした。でも、今日1日体験してみて、本当にマネージャー業が楽しいって思ったし、出来ればこのまま入部したいなって思ってるんですけど……。どうでしょうか……?」

 こうなるまでに至った経緯を素直に白状すると、2人は「えっ、全然良いよ! 私だってマネになったの、当時キャプテンだった先輩がイケメンだったからだし!」「私も、差し入れが美味しそうって理由だったかも〜」と怒ることなく、むしろ受け入れてくれた。そして、「それにしても赤葦ねぇ〜。掴みどころないというか、飄々としてるけど。良いヤツだもんね」「私達が味方になるから〜。マネも恋愛も頑張ろうね〜」と応援の言葉まで重ねてくれた。

「はいっ! ありがとうございます!」

 すっかり暗くなってしまった空に私の弾んだ声が響く。本当に、今日ここに来て良かった。明日からがまた楽しみだ。
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