タロウと賢太郎

 私の日課は飼い犬のダックスフンド……タロウの散歩だ。今日もいつもの様に20時半になるとタロウがそわそわしだす。

「はいはい。散歩行こっか」そう声をかけるとブンブンと尻尾を振るタロウ。「タロウの散歩行ってくるー」そう家の中に声をかけ、外へ出る。



「段々寒くなって来たなぁ……」
今は10月上旬で、季節的には秋。秋は過ごしやすくて好きな季節だけど、最近は肌寒くなって来たし、すぐ冬になるんだろうな……とか考えながら歩く。

「あ」

 そんな事を考えながら散歩コースである公園に差し掛かった時、部活帰りの京谷にバッタリ。……京谷って確かバレー部だったハズ。……ん、でもいっつも部活行ってたっけ? 同じクラスだけど、滅多に喋る事の無い相手だからなぁ。ちょっと気まずい。このまま、素通りしよう。そう思って足を踏み出そうとした時、タロウが京谷の方に向かって駆け出していく。

「あ、ちょ! タロ、」

 京谷って見た目めっちゃ怖いし、犬とか嫌いそう……! タロウを助けなきゃ! 慌ててタロウの後を追う。足元に嬉しそうに絡み付くタロウを見て、払いはしない京谷を見て驚く。

「……犬、好き?」

 あれ、何でそんなばつが悪そうな顔するんだろ。聞いちゃまずかったかな? 尋ねた事を後悔する私を余所に京谷はタロウをじっと見つめる。タロウも京谷を見つめ返してて、2人(でいいのかな?)だけの空間が生まれてる。

 なんだろう。この疎外感。2人は暫く見つめ合った後、満足したのかどちらからともなく視線を外して歩き出してしまう。……変なの。



 部活が終わる時間と散歩の時間が被るのか、何度か散歩中に遭遇する様になった。その度にタロウも京谷に懐いていくし、勝手なんだけど、私の散歩プランの中に“京谷と会う時間”を入れるようになった。

 いつものように散歩していると普段大人しいタロウがバッとどこかに駆け出して行って姿が見えなくなってしまう。

「え、タロウ!?」

 慌てて後を追うけど、やっぱり犬の足には勝てない。……てか何で急に全力疾走すんの。ぜぇぜぇと息を切らしながら、タロウの行方を考える。タロウが行きそうな所……そう考えて、思いついた場所に向かう。



「やっぱ居た」

 タロウが行きそうな場所……公園に向かうと、ベンチに座る京谷の姿が。その隣にはタロウも居て、お座りしてしっぽを振って京谷を見上げてる。「タロウ! 急に走り出すから心配したでしょ! おいで!」と呼び寄せる。立ち上がってトコトコと歩いてくるタロウと一緒に歩いてくる京谷。

「ハミチキ」
「え?」
「食ってたら、来た。多分、臭い嗅いで来た」

 あぁ、なるほど。それで走り出した訳ね。タロウを見つめると“ごめんなさい”というような表情をして見つめてくる。

「見ててくれてありがとう。迷惑かけたんじゃ?」
「……犬、嫌いじゃねぇから」

 そうぶっきらぼうに答えて、タロウの頭を一撫でして帰って行く京谷。やっぱ犬、好きなんだ。

「……うぅ、寒い。帰ろっか。タロウ」



 やっぱり季節の変わり目は体調を崩しやすいらしい。それは犬にとっても同じことのようで、タロウも風邪を引いてしまった。

 日課である散歩も昨日から控えている。今日も多分行けないだろうなぁ。タロウ、大丈夫かな。教室の机でボーっと考えていたら「犬は」と話しかけられる。

……ビックリした。京谷か。てか、学校で話すの新鮮だな。

「風邪引いちゃったみたいで」

 少し困った表情を浮かべる京谷。あ、心配してくれてる?

「季節の変わり目だから。安静にしてれば直ぐに治ると思う」そう付け足すと安心したのか去って行く京谷。優しいなぁ。ほんと犬、好きなんだ。

「京谷に絡まれてたよね!? 大丈夫? なまえ、あんた何したの?」

 京谷が去るなり、遠巻きに見ていた友達から質問攻めに合う。

「別に。大したこと無いよ」

 なんだか、京谷との会話を誰にも知られたくなくて、適当にはぐらかす。……実は京谷が犬好きって事を私だけが知っていたい気持ちに駆られたってものある。



「よし、タロウ! 体調も良くなったし、散歩行こっか!」

 わん! と元気良く返してきたタロウを見て安心して散歩に出かける。いつものルートを歩いて、公園に差し掛かると前みたいにバッと駆け出すタロウ。その先にはベンチに座る京谷が。

「元気になったんだな」

 嬉しそうにタロウに笑いかける京谷。……あ、笑うんだ。笑顔可愛いな。

 私が見てた事に気付いたのか、ハッとした京谷がいつもの仏頂面に戻る。それを見て思わず吹き出しちゃうと、ギロッと睨まれる。前はその顔にビビってたけど今は怖くない。

「京谷ってさ、根が良い奴なんだと思う。だから動物にも自然と懐かれるんだよ」

 尚も無言の京谷に構わず、「だからさ、そんな怖い顔ばっかしてないでもっと笑いなよ。さっきの京谷の笑顔、私好きだなぁ」と告げる。

 しばらく無言のままタロウを見つめ、立ち上がったと思ったらそのまま公園を去って行く。……帰っちゃった。ちょっと馴れ馴れしかったかな?明日学校で謝ろう。

「タロウ、行こう」

 わん! っと満足そうに鳴くタロウと一緒に私も公園を後にする。

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