悲しみ抱いて泳ぐ魚は飛行する夢を見る
※水泳部員と人間観察者
例えるなら、彼は太陽。なのだろう。明るく誰をも魅了していく彼は。
「憂鬱そうだな、成瀬」
「そうでもないさ」
笑いながら答えてみたものの、指摘された通り憂鬱だった成瀬巳継は、目の前の男を見た。
つい先日まで転入生に金魚の糞の様について回っていた男、皆本諒は、何故か今自分の前にいる。
そのことを不思議に思いながらも、理由を尋ねようとは思わなかった。
成瀬は窓の外の喧騒を眺める。
窓際の席から見えるような位置で、今日も転入生含む美形どころは騒がしくしている。毎度毎度、同じ会話を繰り返していて飽きないのだろうか。否、飽きないからこそ、続けているのだろう。
「皆本は行かなくていいわけ?」
そう尋ねた成瀬は、皆本の表情が微かに曇ったことを見逃さなかった。
「―――行けばいいのに」
「必要ない」
「?」
「俺の好きなのは、アイツじゃねーし」
「あ、そうなの」
それはまた、驚いたと答えれば、顔を盛大に顰められた。なんだか泣きそうな気がするのはなぜだろうかと思いながら、成瀬は彼を見つめる。
皆本は自業自得だよなと笑っていた。
「―――――今日も、部活いかねぇの」
「え…」
「あれ…もう水泳部って活動始まってなかったっけ」
「………始まってる」
まさか、成瀬が知ってるとは思わなかったと言われ、人が泳ぐ姿を見るのは、好きだから。と答えれば、不思議なことに、皆本が赤面した。
2014.03.04 / title: 1204