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無垢な毒

※人気者とクラス委員長/友人以上恋人未満


「まーさ」

呼ばれ、鹿目真麻(しかめまあさ)は振り向こうとして、失敗した。
後ろから抱え込まれていて後ろを向こうとしたのは、無理のある話だったようだと一人納得し、大人しく視線を元へと戻した。
首元に顔をうずめられ、身を捩ったところで抱きしめられる力は弱まらなかった。

「――――なに、」

人気者の彼の事だ、てっきり、転入生の事を気に入るのではないだろうか。そう思っていたものの、どうやらそうならなかったらしい。
少しばかり残念で、ほんのわずかにありがたい事だと、真麻は思っている。

「鈴城、ちょっと」

鈴城緋色(すずしろひいろ)はクラス内のみなず、学園内でも人気がある。にも、関わらず、最近来た転入生には目を付けられていない。

「二人っきりの時は緋色で良いって言ってんのに」
「………ひいろ」

真麻が呼べば、鈴城は笑みを浮かべた。

「まーさ、近付いたらダメだよ、あの子に。まーさなんて、ペロリって食べられちゃうんだから」

一体何を言うのだろうかと思いながら少しばかり緩んだ拘束から身を捩って鈴城を見た真麻は、言葉を失くした。

「近付かないよ」

一体、どうして平凡でしかない自分に彼が執着するのか、真麻には分からない、未だ。

「好きだよ、真麻」

好きだと告げられたところで、分かりはしなかった。
少しずつ、鈴城の“好き”という言葉に、自分の気持ちが揺れ動いていること、以外には、何も。

2014.02.24


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