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深夜の神社

※脇役と会長


転入生が来た。かといって、何かが変わるわけでもない。否、極々一部は、変わってしまった。そして残念なことに、それが良い事なのか悪い事なのかは、分からない。
その中に、変わったようで、変わっていない者がいることを知っている。
彼の瞳は酷く昏く、それは底抜けに明るい転入生と接してからも、変わることはなかった。そのことに、転入生は気付いてはいない。周りも、気付いてはいない。

―――――あの方は変わってしまった。

そう言ったのは、確か、彼の親衛隊隊長だった。その言葉を聞いて、お前の目は節穴かと叫びたくなってしまったのは言うまでもない。結果として、叫ばなかったが。何しろ、彼の親衛隊隊長と俺は、面識がない。此方が一方的に知っているだけの話であって。馬鹿だなと思いながらそんな様を眺めていれば隣にいた友人も同じことを思ったのか、アイツ等は何をみてるんだろうな。と、小さく零した。
同性に恋情を抱き恋愛にまで発展してしまう悪習を、知識として知ってはいるものの理解は出来ない為に、土日祝日そう言った者達がそこかしこに居りそれをみたくない、ただそれだけの為に、休みの都度、外出届を出して地元に帰省している。

長袖のTシャツにジーパンを身に着けて後ろポケットに大した額も入っていない長財布を入れ、下駄をからんころんと鳴らして歩きながら、後一年弱で卒業なのかと、考える。それまでに学園が落ち着くのかどうかは、分からない。ただ、一度入ってしまった場所を辞めて他の場所に行けるほど、うちが裕福でない事だけは、知っている。

深夜の神社特有の空気を感じる。ただそれだけの為に、鳥居を潜り、石段を登る。長い石段は考え事をしたいときには適している。からん、ころんと下駄が鳴り、それだけが俺を現実世界と繋いでいる。

―――――今夜も、いるのだろうか。

少し前から俺のお気に入りの場所に入り込んできた存在は、通っている学園の生徒会長だった。学園での態度が形を潜めていた為に、すぐには分からなかったのだが。確かに、彼は生徒会長その人だった。

「―――――柳瀬」

この場所に来るときだけは何かが、少しだけ狂ってしまう。それが夜の空気の成せる技なのかは、分からないが。最後の鳥居を潜れば、考えていた通り、会長がいた。

「またきてたんすか、会長」

大して美形でもなんでもない平凡な(あえて言うならば、平均より身長は高く、ガタイもいい方だとはいえる)自分と生徒会長が密会紛いなことをしている。その事実が学園の生徒に漏れたら、もれなく俺はイジメの対象になるのだろう。まあだがしかし。学園の御坊ちゃまたちのすることなど、たかが知れている。小学生レベルの可愛らしいものだ。流石に強姦や輪姦はご免被りたいが。そうなる前に逃げられる自信は、ある。

「此処は落ち着くからな」
「そっすか」

会うたびに考えてしまっていることがあるとは態度には出さず。同時に、一人で来たんですか。とも、尋ねない。微かに感じる人の気配は、恐らく彼のボディーガードだろう。ボディーガードがいるなら、何も心配することはない。石段の下に金持ちがいると分かりそうな車は停まってはいなかったが、きっと帰る時にはちゃんと迎えが来ることだろう。

「しっかし会長も分かんない人ですね」

そう言えば、力なく笑われる。愁いを帯びた表情が、はっきり見えないことを少しばかり残念に思った。きっと今頃、他の生徒会メンバーは転入生にかまいっきりだろう。ふとした瞬間に会長がいないことに気付いた転入生が騒いで、周りが其れをなだめて、なんだかんだ。その様が想像できてしまって、笑えてくる。

神宮寺の縁側に寝転べば、其れまで佇んでいたと思われる会長が隣に座る気配を感じた。
だからといって、何をするわけでもない。

瞼を下ろせば、真っ暗な闇が視界を覆う。

そんな中、微かに月明かりと思わしきぼんやりとした光が、浮かんでは消えていく。
夜虫が鳴く、草がざわめく。泣きたいような、寂しいような空気がその場を、支配する。
この瞬間が、一等好きだ。
不意に、何かが自分に触れたような気がした。

「―――――会長」

其れが何なのか。きっと、も、なにも。会長の唇だろう。

「な、なんだ」

狼狽えているような気配を感じながら瞼を開けば、彼は自分の行動が信じられないと言わんばかりの表情を浮かべていた。

「そういうことは、安易にしたらいかんですよ」

そう言いながらも、俺の手は彼の頬に伸びて、形の綺麗な唇に自分のそれで、触れてしまっていた。

2013.09.20
修正 2013.09.30


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