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風の吹くまま気の向くまま

※執着できない人


そう言えばアイツ、俺の恋人だったっけ。
その事を思い出したのは、友人に言われたからだった。

「え?なんて?」

有り体に言えば、そんな風に他人に言われないと忘れたままで過ごせる程、どうでもいいことだったのだろう。

「だから、転入生のことだって。むかつかないのか?」
「むかつく?なんで?」

俺の元恋人(と、言っていいのだと思う)と恋人になったらしい転入生をムカつかないのかと聞かれたところで、むかつかないのだから仕方がない。
そんなものだ。と、思う。

(どーでもいいし?)

そんな会話をしたのがつい数分前。
中庭の噴水広場で昼寝でもしようと思った俺は、その行為を阻止された。

「あー!おまえ!」

甲高い転入生の声が聴こえてきたために。
転入生?編入生?まあ、どっちでもいいや。と、思うのもいつもの事で。

「………知らない人におまえ呼ばわりする筋合いないんだけどなあ」

ぼそり、と呟いた言葉は意外なことに、転入生の耳まで届いたらしい。
ピシィ、という効果音が似合いそうな感じで固まった彼を、俺の元恋人が抱きしめて俺を睨んでくる。
ここまで心変わりされると逆に清々しい。

「えーと、なんでしょう?」
「多岐」
「はい?っていうか、なんで下の名前なんですか?会長様に下の名前知られてるなんて俺も偉くなったものですねーイヤーシンエイタイガコワイコワイ」

同じ学年同じクラス、元恋人同士だから下の名前知らないはずがないんだけどでもまあ、下の名前で呼ぶのは、恋人である間だけ、って話だったはずなのに。
そんなことを思いながらなんとなく皮肉を込めて言えば、元恋人は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
ああ、ちなみに元恋人は生徒会長になったらしい。
うん。確かそうだったと思う。いやあ、大変だね。大変だ。

「何もないなら俺行きますからねー。後、転入生君。俺、先輩に敬語も使えない君と仲良くできる気がしないから見かけても声かけてこないでくださいねーも一つ言っとくとその人の事特に別に何とも思ってないんでーそこんとこよろしくー」

何か言おうと口を開いた転入生の口を、元恋人が掌で塞いだところが見えた。
今だけはグッジョブと言わせてもらおう。
ほーんと、学園内では先輩後輩ちゃんと区別して敬語とか使わなきゃいかんよ、社会の縮図(?)なんだから。いや、うん、まあいいやその辺の事は。

「あ。ていうか会長」

転入生にばっか構ってないでちゃんと責任は果たせよ?
最後に素が出てしまったけどまあ、仕方がない。

(あらら。間抜け面)

付き合ってた頃は確かに、好きだったと思う。んだけどなあ。
まあそれも今となってしまっては分からないわけだけど。
別れてしまったらそれまで。
ただのクラスメイトという括りに元に戻った瞬間、どうでもよくなる。
みっともなく泣いて別れないでというやつもいるんだろうけど野郎である俺がそれをするとかないない。ありえない。と、そんなことを思ってしまうわけで。
だからかほんとに、特に同性に対しては、執着心を持てない。
同じくらい物事に対しても執着を持てないからすぐに飽きたりしてしまうわけだけど。
人間関係について言えば、離れてったらさようなら。近付いてきたらこんにちは。飽きるまで仲良くしてちょーだい。的な感じだ。
初等部から此処にいる俺のことを、初等部からの知り合いは理解してくれているためにこれまでこんなおかしなことはなかったのに、さぁ。
ほんとに転入生君は厄介だ。

(諦めてしまった君の負け。俺の勝ち)

俺は俺であって、俺以外になることなんてできやしない。
だから結局、執着心は持てないままだ。

『でもそれって、哀しくないか?』

ずっと前に、そう言われたことを、何故か思い出してしまっていた。

(まあ、でもすぐに忘れるけど)

2011.11.13


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