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ありがとう。

※死ネタ/復讐(?)


この手紙が君の手元に届くとき、多分ぼくは、この世界にいない。

カタン。

手紙が、ポストの下に落ちた音が、聴こえてぼくはホッと息を吐く。ぼくから離れて行った君が、ぼくの事を気にかけてくれていたことは、知っていた。だから、叶うのならば。そんなことを思いながら、祈るようにポストの上を数回撫で、その場を後にした。目指す場所は、屋上。

「さみしい、なんて、ね」

復讐は、ばかげてる。悲しい連鎖しか、うみださない。だけど、これ以外に逃げる方法が思い浮かばないんだ。だから、飛び降りようと思う。ぼくは、此処から、この場所から。学園が見渡せる、屋上から。

君が復讐してくれるなら、それでもいい。
君が復讐してくれなくても、それでいい。

ぼくはただの、弱虫だから。この場所から、逃げ出すんだ。運が良ければ、生きているかもしれない。運が悪ければ、死ぬかもしれない。どっちでも、良い。どちらでも、問題ない。

「――――――、怖いなあ」

人間って、怖い。ぼくは思う。盲目的に人を好きになることは、酷く怖い事だ。幾ら離れたいと言っても、きいてくれない同室者。幾ら彼の事を恋愛感情で好きなわけではないと説明しても理解してくれない同室者の取り巻き。同室者は別に、ぼくのことが好きなわけではなかったように思う。それなのに、付き纏ってきたのは多分、

「代わり、が、欲しかったんだよね」

自分の代わりに、嫌な事を請け負ってくれる人が、欲しかった。それだけ。生徒会なんかに興味はなかった。美形なんかに、興味はなかった。

「………………もしも、」

もしも、あの子の夢の中に化けて出ることが出来るなら、嗤いながら言ってやろう。ユルサナイ、と。だって、彼のおかげでぼくの平穏だった生活は一瞬にして崩れ去ってしまった。もう、元に戻すことはできない。みんな、変わってしまった。すべて、変わってしまった。すべて、壊れてしまった。
嗚呼、でも、君に最後に、会えたのは嬉しかったな。

『ありがとう』

あの時、少しだけ言葉を交わして、別れる間際、最後に告げた言葉に、君は何を感じただろうか。微かに重なった指が、少しだけ熱かった。暫くその熱は収まらなくて、泣きそうになった。引き留めようと、してくれるのが分かったから、ぼくは足早にその場を後にした。助けて、って言ったら、助けてくれたのかな。けど、そんなこと言えないよ。言ったら、君まで、大変なことになるんだから。一度逃げ出した君に、助けて、なんて。言えなかった。
そういえば、いつから泣いていないのだろうか。思い出してみようとしたけど、できなかった。今だって、ほら。涙は、流れない。浮かぶのは、笑みだけ。きっと、最期のその瞬間まで、涙は流れない。

「―――――――サヨナラ、」

結構、好きだった。この世界。お父さん、お母さん。ごめんなさい。もし、ぼくのことを心配してくれている人がいたら、その人にも。ごめんなさい。めいいっぱい謝って、それでも、最後は。

「ありがとう」

笑いながら、逝きたい、な。


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2011.09.26


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