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05

彼を観察してそんな彼を好きになってしまったのは間違いだった。

「もう、いいよ」
「………どうして、」
「もういいんだ、直哉」

自分の役割から逃げたことによって、その責を彼が負う事になった。
元より“死”という概念など、持ち合わせていなかったと言うのに。
幸野凌也という人間など、存在しない。最初から。
世界から外れた存在が、世界に交わろうとした結果、綻びと歪みが生じた。
彼は彼で、そんな存在を観察したいと願った。
まさか、自分の姿が見える人間がいるとは思わなかった存在は、そんな彼をずっと、観察していた。

「折角、僕が、」

嫌だ、と呟いた彼は、昔の俺と同じ格好をしていた。だけどそれは、俺のモノだ。お前のものじゃない。お前が死んだと思っていた俺は、消えただけだ。世界から、お前以外のすべてモノの、記憶から。最初からなかったものに、ただ、戻っただけだ。

「それが、間違いだった」
「なんで」
「俺は存在しない者。お前がずっと名前を呼ばなかった存在は、確かに俺だ」

思い出せよ。そして、忘れろ。

(そうしたら、すべて、元通り。過去も未来も現在も、)

2012.05.21


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