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返してもらいましョ

※霊感持ち(?)*書記


呼び出され、襲われかけている。そんな状態であるにも関わらず、笑っているオレが不気味に見えたのか、目の前の生徒たちは妙な顔をしている。
別にオレは喧嘩が強いわけではない。他者より多少精神がイッてしまっているだけであって。嗚呼、これはオレが自分で気付いたことではなくて、恋人がそう表現しただけだ。切っ掛けは多分、他者の後ろに突っ立っている変なモノだろう。物心着くころから既にそれは見えていた。

「いや?気が済むまで、どうぞ?」

できるものなら、ね。
震えながらも、プライドが許さないのかやっちゃって!と、可愛らしい声で一人が言い放った。言わなければ違う未来があっただろうに。もう、遅い。
母は言った。自分のチカラを知っておきなさい。父は言った。お前に手を出すなんて、面白いことをする奴がいるもんだ。また、妹はこう言った。兄さんに手を出すって、すごく命知らずな人がいるのね!
実際にオレが自分に憑いているモノを見たことはない(シャイなのか、オレがみようとすればソイツはすぐに消えてしまう)が、家族が言うには相当強いらしい。あらゆる意味で。というか、其れを知っている時点でオレの家族は揃いも揃って、少しおかしい。最も、一族的にはそれが普通である為、可笑しいと言うのは恋人基準になるのだが。
そんなことを考えているうちに、目の前の生徒のうち一人がとさ、と床に倒れた。

(あァ、斬られたか)

焦る生徒たちを見ながら、オレは呟く。

「程々にしといてくれよォ?」

オレが自分から正体をバラすまでは。彼等ではなくオレに憑いているモノにそう言った(誰に、とは言わずともヤツの事だから分かってくれているだろう)後、オマケの様に続ける。

「コイツと同じ状態になりてぇなら残ってれば?ちなみにもう、コイツはフツーの生活、できねェだろうなァ。きっとお前等の事も覚えてないだろうよ」

結果として最初に倒れたヤツ以外は斬られることなく、自ら退室して行った。驚いている表情は大変可愛らしかったが、性格ブスでは話にならない。そもそも、どんなに可愛くとも此処にいるのは男だけなのだ。
親衛隊達からの制裁もどきは多々あるものの、始終こんな感じであるため、今のところ実害はほとんどない。が、厄介事は別にある。制裁もどきを受ける原因となり、恋人と離れる原因になった張本人をどうにかしない限り、アイツと学園生活を満喫することなどできないだろう。
さて、どうしようか。そろそろアイツ不足が深刻だ。そんなことを教卓に腰掛け、考えていればバタバタと騒々しい足音が近付いてきた。バン、と開け放たれた扉からは不幸にも同室になってしまった理事長の甥だと言う転入生が現れる。

「大丈夫かっ!?」
「大丈夫。見てわかんねェ?」
「で、でもっ!さっき親衛隊のやつらが「あァ、そっちに行ったかァ。気にすんなよォ?気にしたら最期、」

斬られるぜェ?
転入生を、正確にはその後ろの者に向かって言う。オレに憑いてるヤツが後ろで殺気立っているのが雰囲気で分かる。斬りたくて殺めたくて仕方がないのだろう。ただ、それはすべきことが終わってからだ。転入生を無視してそんなことを考えていれば、彼を追いかけてきた取り巻きが現れ、形だけオレに状況を聞いてきた。状況説明をした後、笑いながら言う。

「いやァ、それにしても久しぶりですねェ?」

お前は誰のモノだったっけェ?臣。
言えば、書記は表情をかえた。泣き出しそうな書記を見て、転入生が慌てる。転入生が気にかけているからか、オレに向けられていた殺気立った周囲の視線は、今や書記に向けられている。心配しなくとも書記が転入生とどうこうなるはずがないのに。なァ。

「色城、宮、…っ」
「そうそ。よく出来ましたァ」
「な、で、おれ、!」
「んん?」
「ごめ、ごめ、なさ…!!」
「謝るのはオレの方、だろォ?なァ、臣」

かわいいかわいいオレの狗。離れるなら忘れさせてと乞われ、そうしていたが転入生のモノにされてしまうには惜しい。惜しい。と、言うよりオレがムリだ。こうして数週間離れているだけでも神経がささくれ立ち苛立ってしまうのだから。だから、そう。返してもらおう。書記のことを好きで好きでたまらない、転入生には悪いけど。
フラフラと近付いてきた彼を優しく抱きとめ、名前を呼べば、宮、宮だぁ。宮。と、泣きながら抱きつかれた。

「宮」
「よーしよし。やっぱ臣は癒されんなァ」
「なっ」

臣!なにしてんだよ!!と、転入生が喚いている内容は耳に入れないようにする。

「臣ィ、オレ、深刻な臣不足なんだけどォ」
「………ん」

普段あまり表情が変わらない臣のそれが変わる瞬間を見るのが好きだ。後ろのは臣とオレが一緒に居たところで何かしてくることはない。が、周りに対してはそうではない。それは分かりきっていた。したがって、感じ取れているかどうかは分からないが、ほぼ間違いなくヤツは生徒会連中と転入生を斬ろうとしているだろう。

「斬るなよ」
「………み、や?」
「ああ、臣に言ったんじゃねェよ。後ろのに言った」

途端、ぎゅう。と、抱き着かれ、痛くならないだろうと思う程度の力で抱きしめ返す。心霊とかそういうのがダメな臣は可愛い。ただ、出来る事ならそのうちヤツの存在を認めてやってほしいと思う。今だって姿こそオレに見せてくれないものの、臣に避けられてどこか落ち込んでいる気配が伝わってくる。

「転入生は斬ってもいいけどよォ、」

使い物になる程度にしといてくれよォ?そう言い、喚く害虫どもの声は悉く無視し、その場を後にした。臣を抱き上げたままその場所を後にし、旧校舎から出ようとしたところで聞こえてきた(恐らく)転入生の悲鳴には、気付かない振りをした。

2011.09.11
補足*
色城宮(しきしろみや):普段は隠してる(つもり)なのになんかいろいろヤバい。とにかくヤバい。常識を逸脱している存在。転入生と同室。ただ今後は多分書記の部屋に入り浸ることでしょう。
那珂路臣(なかみちおみ):生徒会書記。依存体質。宮の事が好きすぎて自分の傍にいないなら忘れさせてほしいと頼んでそうしてもらった。宮に“誰のモノ”と言われた瞬間すべてを思い出すようになっていた。

転入生+α:転入生は臣の事が好き。+αはもちろん、転入生の事が好き

# 加筆 2012.09.30


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