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赤い椿の血液咲いた

※霊鬼と少年


―――椿

呼ばれた声に、少年は振り向いた。振り向かずとも、己を呼んだ者が誰であるかは、知っていた。それでも振り向いた少年は、その先に、予想した通り、男の姿があった事を認め、嬉しそうに微笑んだ。差し出されたその手を取る。少年より大分背の高い男は小さな声で歌を口遊んでいた。幾度も聞いたことがある歌だった為に、少年も男の真似をして口遊む。

―――いつか、自分を喰らうと言っていたこの人が、いつ自分のことを喰らってくれるのだろうか。

少年は男と出会ってからずっとずっと、同じことを考え続けている。
体に付けられる傷は増え、癒える事がない。そのうちに、少年は家を抜け出し男の姿を探すようになった。はやくはやく、自分のことを喰ろうてもらおう。そればかりを考えていた。だから少年は、気付かなかった。男の眼差しが、食糧を見るそれと異なっていることに。

「?」

少年が不思議そうにしていれば、男が言う。

そうだな。
見つかりやすい場所に。
お前の代わりになるような、躯と血液でも、ばらまいておいてやろう。
お前が身に着けていた物を、傍にも置いておこう。
失ってようやく大切だったと気付くことが出来るように。
二度と誰かをお前のように扱わぬように。

そう言われ、内容こそ理解できなかったが、抱き上げられた少年はいつものように男に唇を寄せられ、擽ったそうに目を細めた。

「いつ食べてくれるの?」

そう問うた少年に、椿はそればかりだなと男は言う。

「だって、その為に声をかけてきたんでしょう」

少年が言い、男は笑った。男の額に生えた角を恐れずに触れる少年は、そこが男の急所であることは知らない。それでも不思議と、其処にだけは傷をつけてはいけないと、知っていた。

「椿」
「なあに」
「俺と来るか?」
「行く!!!」

考えることもなく答えた少年に、男はうっそりと笑った。
少年の家族には後程、先程の物に加え、恐怖心を煽るような贈物でもしてやろうと考えながら、嬉しそうに笑いながら抱き着いてきた少年を抱きしめる。

「でもぼく、鬼じゃないよ?」
「鬼だよ」
「そうなの?」
「そうだよ、椿」

お前は鬼だ。そう言いながら抱きしめる力を緩められ、空いた片方の手で撫でられた額には、何もない。
それでも少年は笑った。

2014.01.02
re 2016.06.25


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