こなごなの選択
※脇役(とその友人と)→平凡
大丈夫だと彼に尋ねて、大丈夫だと、彼は答えた。
確かに、そう答えたというのに、もしかしたらあの時には、大丈夫ではなかったのかもしれない。
そんなことを考えながら、笑顔を張り付けている彼の姿を目で追った。
編入生が来てからというもの、彼の生活は一変してしまった。
それが良いことなのか悪いことなのかと言われたら、きっと、悪いことなのだろう。
彼は彼の時間を失い、編入生に付きまとわれて離れることすら出来ずに一方的な好意と圧倒的な悪意に耐えていた。
もうきっと、彼自身には耐えているという自覚症状すら、ないはずだ。
「彼は至って普通だからね。自らが壊れなければあの輪の中には居続けることができなかっただろうよ」
友人はにんまりと笑いながらそう言う。
彼を眺める友人の視線は、観察対象者を眺めるかのようなものだった。
「……求めてほしかったなぁ」
小さな声で呟けば、友人が笑った。
「求められたら助けてあげたのかい」
「そりゃあ、そうでしょ」
僕はあの子のことが好きなんだもの。
そう答えれば、友人は殊更に笑みを深めた。
「求められなかったから助けなかったのかい」
「そうだよ。なにしろ僕は、編入生クンみたいに押し付けるのは嫌いなんだ」
「君のそれは押しつけにはならなかったと思うけれどね」
友人の話し言葉は常に神経を逆撫でする。
それでも付き合いをやめないのは、友人が友人であるからなのだろう。
「もし、今助けを求められているとしたら?」
「………とりあえず、彼のことを隠してしまうかな」
「ふむ」
「編入生クンが絶対に手を出せない場所に」
「たとえばそれは?」
「僕の家」
「なるほど。それは確かに誰も手を出すことが出来ない」
「……………」
茶化してくる友人を睨み付けた後、編入生に連れまわされている彼の様子を見つめる。
「攫ってしまおうか」
小さく呟いたにも関わらず、友人はその声を拾い上げた。
「協力するよ」
友人の協力が得られるのならば、失敗は有り得ない。
「それは、ありがたい」
この後の流れを考えながら、そう返した。
2016.05.10
りはびり