覚悟はとうに、できていた。
※書記と会長と庶務
もうすぐ終わるな。
会長の静かなその言葉に、書記は目を細めた。
納得はしていない書記の気持ちも知らず、これで良いのだと、会長は、笑う。
それは、それは綺麗に笑う。
だからこそ書記は、数ヶ月前に来た編入生の事を許すことが出来ないと、口にしたのだろう。
ふわり。
開け放していた窓から吹き込んだ風によって、レースカーテンがはためいた。
会長は、儚くも見える。
儚い容姿である為に、そう見えるのかも知れない。
しかし、実際は見た目にそぐわず、心臓に毛が生えているといっても過言ではないと思えるほどに、図太い。
本性を知っている者は気にしないが、知らない者はそうもいかない。
「……どうして?」
理解出来ないという思いを表情に浮かべている書記を見て、会長は笑んでいた。
「悪いことだけでは、なかったから。だろうな」
器物破損を始めとし、数々の問題を編入生は起こしてきた。
それでも、この学園を悪いほうに向かわせているわけではなかったと、会長は笑う。
「だって、でも」
「色恋に現を抜かすことを、悪いことだとは言えないさ」
「………なに、それ」
納得できないと、書記は俯く。
会長はそんな彼を見て、笑っている。
僕はといえば、どうすればいいのだろうかと右(会長)を見て、左(書記)を見て、本当にどうしたものだろうかと考えることくらいしか、出来ない。
手元にある書類を見て、どうしたものかと考える。
だからといって、何をどうすることも、出来ない。
ただ、その場の流れに身を任せることしか。
「会長」
「命短し、」
僕が声をかければ、会長は笑った。
続けられた言葉に、書記は困惑気味に美貌を歪ませ、僕は泣きそうになるのを、必死にこらえた。
つまりそういうことだと会長に言われた書記は、意味が分からないと呟いて、僕はと言えば。
「…………そう、ですね」
はじめて、会長と視線を交え、その力強さに戦慄した。
「終わりに、しよう」
異分子は、排除する他にない。
書記は、そんな会長に驚いている。
それでも、僕は驚かない。
彼が、一度見限った人たちへの、対応を、知っている。
それを、彼らはわかっていたはずなのに、今となってはもう、後の祭りだ。
「……いいんですか、会長」
必要書類を手渡されながら、僕は、笑う。
「これ以上、掻き回されたら元に戻せるものも、戻せなくなる」
「わかりました」
だから僕は、唖然としている書記に気付かない振りをして。
会長から差し出された書類を受け取り、笑った。
2016.10.06
re 2016.11.04