真昼の神社
息苦しくなると、こうしてこの場所に来ることが、増えた。
「昼間からとは、また…」
珍しいっすね、会長。
名前で呼んでほしいと思うようになったのは、いつからだったのか。
耳に心地好い声で言われ、答えを返せずにいれば、声もなく笑われる。
くたびれたジーンズに、下駄。
夜とは違い、ストライプのカッターシャツを着ている柳瀬は、不思議と眩しく見えた。
「いいんですか?生徒会長がサボりなんて」
「…お互い様、だろ」
「……すね」
やっとの思いでそう返せば、どうでもよさそうにこたえられる。
思わず笑みを浮かべれば、驚いたかのように見つめられた。
その反応が、今までなかったことだったために困惑していれば、柳瀬が言う。
「すみません」
会長も、笑えるんだと思ったら少しだけおかしくて。失礼な話ですよね、ほんと、すみません。
同学年であるにも関わらず、丁寧なのかそうでないのかよくわからない柳瀬の口調は、何度会っても、そのままで。
それを少しだけ、残念に思っている自分がいるのも、事実だった。
「―――やなせは、」
「………」
瞬間、再び驚いたように見つめられたのは、何故なのか。
名前を呼ぶのは、別に、初めてではないはずだと思いながら見つめていれば、続きを促される。
「柳瀬は、もう学校には来ないのか」
少し前に学園を騒がせていた編入生が、実は裏口であったことが公にされた途端、あっけないほどに事は収束に向かった。
だからと言って、これまでのことが、なかったことにできるはずもなく。
学園が落ち着きを取り戻すのは、だいぶ先のことになるだろう。
「―…行きますよ」
微笑みながらそう返され、安堵したのは、何故なのか。
「だから、会長も来てください」
待ってますから。
その言葉を嬉しく思いながら、差し出された手に、触れた。
2015.08.03