あなたのために
※俺様風紀副委員長×わんこ風紀委員長
「じゅん、」
自分の名前が好きではなかった。むしろ、嫌いだった。それでも、彼に呼ばれるのは好きだ。彼に呼ばれてから、自分の名前が好きになった。
だからこそ俺は、彼の盾になろうと風紀委員長にのし上がった。そうなるには本性を隠さなければならなかったものの、それすら、厭わなかった。風紀委員長は生徒から一目置かれなければならない。と、言う彼の指示通りの人物像になれるように、演じた。ただ、それを演じるのは学園内にいる時だけであって、寮では、本当の自分に戻れる。と、いうかそう四六時中演技をしていては、身が持たない。
「じゅん、」
普段とあまりにも違いすぎるからか、寮にいる俺と風紀委員長が同一人物であると気付く者は多くない。仮にもし、気付いたとしても気のせいだと思いこみ、謝罪と共に立ち去っていく者の方が、明らかに、多い。
「じゅーん」
名前を呼んでくれるその声を、いつまででも聞いていたくて、わざと眠った振りをし続けようとしたものの、ぐるぐるぐるぐる、考えているからか、眠った振りをすることに集中できない。そうしていれば、触れられた。それでも、もう少しだけ彼が自分の名前を呼んでくれるのを、その声を聞いていたい一心で、どうにかして再び眠りにつけないかと身動ぎをすればくすり、という笑い声が頭上から響いた。
「狸寝入り?」
「……………ちが、う」
「ふぅん?」
どっちでもいいけど。そう言いながら、目を開き否定した俺に、彼は笑う。その笑みが、どうしようもないくらい好きだと思う。それこそ、彼の口から俺の名が紡がれる、それと同等に。
「―――呼んで」
また、明日から頑張れるから。そんな意味を込めて言えば、目の前の男は綺麗に笑いながら、柔らかく俺の名を呼んでくれた。
「盾」
2012.05.25
加筆修正 2013.04.12
愛してくれるなら、名前を呼んでくれるなら、喜んで身代わりにでも、盾にでもなる。