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03 : 所有論
血の流れる音が聴こえた。
見上げれば、不思議なことに心配そうな表情を浮かべた見知った顔があった。
「………なんて顔、してんだよ」
これは、俺が失敗しただけだ。
言えば、殺人鬼に抱きしめられた。
「――――、」
こんな時に呼べる名がないのは、不便だ。そんなことを思ってみたところで、彼の名を聞こうという気は、今日に限って湧いては来なかった。
「元」
最初から名前で呼ばれるのは初めてだ。
そんなことを考えながら、彼に殺されてしまった、俺を傷つけた犯人に、目を向けた。
「元、」
「な、――――ッ」
痛い、と思うよりも先に、熱いと感じた。
じくじくと痛みを持って、其処だけが酷く熱い。
「奇壱を傷つけていいのは、犯していいのは」
珍しくも真剣な表情でそんなことを言われ、奇壱は少しだけ笑った。
「―――そうか」
「そうだよ」
「そっか」
笑いながら、それでもきっと、自分は彼のコトを捕まえようと思うことはないのだろう。と、そんなことを考える。
粛清だ。と、告げた彼の瞳は酷く冷たかったと言うのに、今自分を見つめる彼の瞳は、違った熱が灯っている。
嬉しいような、哀しいような微妙な感覚だ。と、奇壱は思った。
傷つけられた脇腹が、犯された内臓が酷く痛んだが、それはきっと、この目の前にいる男によって緩和させられるのだろうと思った奇壱は、力を抜いて目の前の男に寄りかかった。
2013.04.07