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02 : 関係性
奇壱元はとある殺人鬼を気に入っている。理由などなく気に入ってしまっているのだが、肉体関係を持つに至った明確な理由は思い出せない。思い出せないものの、そうなる切っ掛けが在ったことは、確かだった。そして、それが未だ持って続いている関係であることも、また事実だ。
その日の気分により上と下の位置も何もかもが変わる上に、その行為に及ぶにも関わらず、相手の名は未だ知らぬままであり、会う都度、奇壱は彼の名を適当にでっちあげる。
「奇壱、」
「――――ッ」
名前を呼ばれるだけで胸が高鳴るのは何故だろうか。考えてみるものの結局、奇壱の中で明確な答えは生まれない。
「名前、」
「ん?」
「名前、教えろよ」
そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか。奇壱が仏頂面でそう言えば、相手は笑った。それはどこか嬉しそうで、楽しそうでもあった。その表情を真正面から見てしまった奇壱は、言わなければ良かったかもしれないと一瞬、後悔した。ただし、それはほんの一瞬の事で、正面から聴こえてきた声に、奇壱は目を見開く。
「奇壱になら、」
教えてもいいかな。笑いながら言われた、瞬間殺気を感じた奇壱は彼から距離を取った。その瞬間、それまで奇壱がいたその場所に、刃が刺さり、感嘆するかのような口笛が届いた。
「―――――なるほど」
その後すぐ、今度は首元に刃を向けられ、状態としては刃を首に、突きつけられていた。
そんな状態でも奇壱は笑った。すべてがおかしいと言うかのように笑っていた。さながらそれは、相手のその行為が嬉しいとでも言っているかのようだった。
「なるほど?」
「刺すか?」
「…………」
カラン、と、音を発ててそれは地面に落下した。
「刺さないよ」
だってボク、元のコト好きだもん。
だもんとか言うな。とは言わず、奇壱は笑った。
「今日は逆、ね」
そう言われ耳元に口を寄せられ、告げられた内容に。奇壱は口の端を上げた。
2013.03.13