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忘却曲線
2016/12/21
忘れてほしいと願った男と忘れたくないと捻じ曲げた男
忘れてもいいよ。そう言われても、忘れることは出来なかった。ある晴れた日の、雲一つない、空の下。貴方が言った。
(どうして、)
こうなることが分かっていて、だからこそそう言ったのか。考えることは出来ても、答え合わせをすることは、出来ない。永遠に。
『―――好きです』
付き合ってください。
多分、世間一般でいう可愛らしくて、美人でもある女の子にそう言われて、断ってしまったのはきっと。
泣きながら去っていく女の子を見て、なんとも思わなかったのも、きっと。
(ああ、まだ、こんなにも)
告白したのは、僕からだった。別れようと、そう言ったのは、貴方だった。これから先、未来なんてないのだとそう言って笑って。その後すぐに、交通事故で貴方は命を失った。唯一、貴方に近かった幼馴染が、僕に言ったのは、にわかには信じがたい事だった。それでも、何故か信じることができたのは、嫌いになったのだと、好きじゃなくなったのだと言っていた時の貴方が、泣きそうな表情をしていたからだと、そう思う。
―――あいつは、未来が視えるって、言っていた。
曰く。別れなければ、僕が廃人になる未来が視えていたのだと。そう、教えてくれた幼馴染は、きっと知らない。
「………ただいま」
僕しか知らないパスワードを入れて、扉を開ける。貴方が好きだと言った色で、室内は満たされている。未だ包帯を巻いている貴方が、過去を思い出すことがないことを、僕は知っている。
「おかえり、 」
そうして、名前を呼ばれてただいまと返して。もう未来を視ることはないだろう貴方のことを、僕は抱きしめた。