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HQ!! SS



潔癖症の内側
@18zzz_hq




「今日もテーピング? それともサボり?」

 お昼ももうすぐ終わり、授業が始まる。…という微妙な時間帯にその男はやってきた。具合が悪くもないくせに毎日マスクなんてしちゃって、それが我が高男子バレー部のエースだか次期エースだかって言うんだから信じられない。のっそりとした猫背のままじろりと見た目は「察しろよいいだろうがあと少しくらい」と言いたげだ。眠いのかと思っていたけどそうではない。ベッドへ直行する訳でもなく、彼はいつも小さなソファに腰を降ろしてぼやあっとわたしを見ていたり、適当に視線をどこかに投げている。

「ねえ聞いてる? 佐久早君」
「…時間になったらちゃんと戻る」
「まあそうだろうなってことは分かってるんだけどさ」

 先生が出しっぱなしにしていたペンやゴミを片付けて、そろそろわたしも教室に戻ろうかと思っていたところ、だったんだけどなあ。でも佐久早君は、わたしがお先にと出て行こうとしたらすぐに睨む。まるで「誰が出て行っていいって言ったんだ」と言いたげに。だから彼が入ってきた時は授業が始まるギリギリにしか教室に戻れないのだ。わたしは彼の一つ上、…だというのにそれを全く感じさせない威圧感と言ったら、ちょっと悔しいくらいである。

「わたし毎週水曜日と金曜日がお昼の当番なんだけど殆どと言っていい程保健室来るよね」
「あ?」
「いつも聞くけどなんで?」

 くるっと彼の方へ振り向けば、相変わらず首ごと顔を逸らして不機嫌そうに歪める眉間の皺に、今日もやっぱり教えてくれないのだろうなと思う。理由さえ分かればこんなにわたしもモヤッとしない気がするけれど、あんまり踏み込んで怒らせてしまうのもいや…というか面倒臭いのだ。だから、無言になって一分経ったら諦めることにしている。
 二十、三十。そうやって数えるのが段々癖になってきた。そして五十一秒経ったところで息を吸い込む音がして、わざとらしく大きく吐き出した音もした。初めてのことだ。一分以内に何かしらの動きがあったのことは。

「‥本当に分かんねえか」

 過去、今までにないくらいの酷く低い声だった。びっくりして顔をぱっとあげたら、いつの間にかずうんとわたしのすぐ側に彼が立っていて、わたしを真上から見下ろしていたのである。
 え、いや、分かりませんけど、それが何か。
 持っていたテーピングが指から離れた瞬間、分かっていたように佐久早君がそれを下からキャッチして、もう片方の空いた指でゆっくりと白いマスクを取り外す。スローモーションみたいに、ゆっくり、ゆっくり。

「アンタがいるから通ってんだけど」

 初めて見た、彼のちゃんとした顔。初めて見た、口が動いてるところ。喋ってたんだ、ちゃんと。そんな思考で覆い尽くされた時、話し聞いてんのかってテーピングをキャッチした手で思い切り右の頬っぺたをつねられた。…あれ、潔癖だから、他人には触らないって聞いたんだけどな。

「‥ん?」

 そうして言葉の意味を理解した時、佐久早君の整った唇の端が本当にちょこっとだけ上がっていて、その表情に初めてキュンとしてしまった。いつからだ、そんなの全然気付かなかったんだけど。歳下の癖に生意気ばっかりで敬語も使ってくれないのに、ちょっと顔が熱くなってるのは絶対に気付いてほしくない。…もう、ほんとむかつくなあ。