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冬のぬくもり
@18zzz_hq




 滅多に積もらない雪が見渡す限りに広がっている。昨日まで「動けば結局暑いから」とアウターを着る以外は秋装備だったのに、今日の朝は寒すぎて防寒フル装備だ。部屋から出たくないと駄々を捏ねたがやはり母親にド叱られたので、こうして頭の上に雪を積もらせながら、通学路の真ん中を歩いている。
 高校最後のクリスマス。例年通りに彼氏なんて存在がいないわたしは今年も仲の良いグループで集まってクリスマスパーティー! …なーんて思っていたのに、みんなそそくさと彼氏なんか作っちゃっていつの間にかボッチクリスマスである。抜け駆けだ! 酷い! そうやって心の中で罵るのは羨ましいからであって、幸せそうな友人達の顔を見ると「いいよいいよ、楽しんできて」だなんて口からすらすら出ていくのだからわたしも人が良い。恋をしていない訳ではないが、その意中の相手は朝から晩まで毎日毎日バレーボールのことで頭がいっぱいだから、わたしの視線になんか気付いちゃいないだろう。小柄でちょっと可愛い夜久衛輔くんは、その外見とは裏腹に中身は超男前。隠れた人気者なので競争率が高いが、そんな彼に彼女が出来たなんて噂は一度として聞いたことがなかった。

「雪だるまになってるぞ」
「ぉぎゃッ!?」

 声をかけられたのと、頭の雪を突然払われたのはほぼ同時だった。出したことのないところから変な声が出て思わず肩を竦めると、後ろに悪戯が成功したような顔で笑う夜久くんがいたのだ。今の今まで彼のことを考えていたわたしからすると前もってそっと声をかけて欲しいところではあったが、それ以上に嬉しいが占めてしまっているので何も言えなかった。

「あれ、部活は?」
「今日の朝練はなし。昨日の朝の時点で雪が酷くなる予報出てたから」
「ああ、そういうことね」

 成る程。確かに万が一猛吹雪だったりしたら部活どころじゃないもんな。ぐるぐる巻きにしたマフラーに口先だけを埋めて寒そうに震える夜久くんは、わたしの前を歩き出す。あれ、…これってもしかして一緒に登校できる流れ? 嘘、どうしよう緊張する。慌てて近くのカーブミラーで身嗜みを確認して、一定の距離を保ちながら彼の後ろをついていく。
 そういえばバレー部って全国決まったんだよなあ。この間全校朝礼で予選の成績を表彰されてたっけ。全国って言ったら、本当に一握りの高校しかいけないような大会だよね。すごいな。…かっこよくてすごいとか意味が分かんない。前世にどんな徳を積んだらそうなるんだ。

「手が冷てえ〜」
「ホッカイロあるよ、貸そうか?」
「いいよ、そっちが寒くなるだろ」
「わたし手袋してるから」
「うわ、その手袋あったかそう」

 もこもことしたフリースの手袋は、中の熱を逃げないように保温することができるちょっと良いやつだ。おかげで雪の日でも素晴らしい威力を発揮する。…夜久くんの手、よく見ると指先まで赤くなってて本当に寒そうだ。

「はい」
「え。いいよマジで」
「夜久君がよくてもわたしが気になるから使って。寒そう超えて痛そう」
「…いいの?」
「うん」
「サンキュー!」

 差し出したホッカイロをあったけえと両手で包んで右の頬っぺたに押し当てている。そんな姿が可愛すぎて思わず「可愛い」と言いそうになった口を必死に閉じた。いいなあホッカイロ。そんな風に夜久くんとお近付きになれて。わたしももっと近付きたい。ほわほわと昇っていく白い息が鼻をくすぐってくる。ホッカイロもう一つ持ってくればよかったなと頭をよぎった、その瞬間だった。

「うわ、俺より冷てえじゃん」

 ホッカイロで温めていたはずの夜久くんの両手が、わたしの両の頬っぺたを包む。まだ少し冷たいけどほんのりと暖かいその手は大きくて、見た目よりもゴツゴツしてて、わたしなんかと違って男の子の手だ。吃驚しすぎて何が起こったのか一瞬分からなかったけれど、じわじわとくる羞恥心、全力で早鐘を打つ動悸。カッと耳の辺りから熱くなって、周りの雪を溶かしてしまえそうな程に体温が上がっているのが分かるった。

「ちょ、ちょっとっ」
「変な顔」
「な!」
「…なんて。嘘だよ」

 降りしきる雪の中で見えたその表情はとても柔和で、少し照れているように見えた。
 嘘だよ、って、じゃあ、何が本当なの? 
 真っ赤なトマトみたいな顔をしたまま立ち尽くしているであろうわたしの様子を見た夜久くんはいつもみたいににっと笑ったあと、いつものように歩き出す。「早く来ないと置いてくぞ」って、まるでほら、そういう関係みたいじゃん。…頬っぺたに火傷の手形、できてないといいんだけど。