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planning



ちゃんと宣言してください!
@18zzz_hq




 一つ上の月島先輩は、とってもクールで、とっても身長が高くて、シュッとしててわたしの好みど真ん中。月島先輩目当てで烏野に入ってきたと言っても過言ではないくらいに超タイプの男の人だ。

「ありがと」

 …まあ、ということは、わたし以外にも勿論ライバルが山の如くいる。だって月島先輩かっこいいもん、分かってる。とか聞き分けの良い子を演じるのは難しい。目の前で繰り広げられているわたしと同じ一年生の女の子達が群がっているのを見ると、あの中の一部になってしまう自分が嫌でつい隠れてしまった。月島先輩はちゃんと受け取るのかなあなんて少し疑問だったけど、まさか全部受け取るなんて。絶対貰わないと確信していたのに。だってよく分からない人から貰うもの、気持ちが悪いって言ってたから。

 かくいうわたしはぐいぐいいく性格だから先輩とも割と仲が良い方だと思う。入学式の始めに男子バレー部の見学に行って、練習試合も公式試合も見に行って、部活が休みの平日は偶然を装って門の前で待ってみたり。だから、なんだかんだ貰ってくれるだろう、皆とは違って! とか、かなり自負しすぎてたかもしれない。きゃあきゃあと騒がしい私と同学年の女の子達はこぞって目をハートにして喋りかけてくる。ほら、先輩鬱陶しそうだよ。むしろわたしが鬱陶しい! あんまりべたべた引っ付かないでほしいんですけど!

「先輩今からどこか行くんですか?」
「このまま帰るけど」
「どっち方面なんですか?」
「…悪いけど友達待たせてるから」

 出た。必殺にこやかなのに有無を言わせないオーラ≠フ月島先輩。だけど、女の子達はその裏事情には気付かない。きゃあ、と一つ黄色い悲鳴を上げて、「だったらしょうがないですよねえ、」って、物分かりが良い様子で少しずつ離れていく。でもやっぱり離れたくないのか、すぐ側でそわそわしてる子もいるのだ。月島先輩モテ過ぎ。わたしの入る隙が中々ないじゃないか。まだ渡してないんだから、帰るのだけはやめて。

 結局女の子達は疎らになっただけで、先輩から離れようとはしていなかった。全然出て行けなくて、腕の中に収めた手作りのチョコレートが「出番はまだか」と何度も問いかけられている気分になる。あんな集団気にしなくたっていいかもしれないけど、それは無理な話だ。

 早くどっかに行けーって思っていたら、颯爽と離れてしまったのは月島先輩の方だった。え、嘘、待って待って、まだわたしがいます、まだチョコレート残ってます! そんな心の声が聞こえる筈もなく、左へと曲がって消えてしまう。追い掛けたいのにぽかんと口が開いたまま動くことができなかった。

 何故彼は、一年の女子生徒の中で一番仲が良いであろう私に「チョコを貰えるだろう」ということを思わないのか。っていうか待ってくれないのか。普通は少し探すくらいするじゃん! なんて、自信過剰にも程があるけど、それくらいには自信があったのだ。好きまでとはいかないけど、そういえば今日は煩いあいつがいないな、的な。しかも、バレンタインデーという一大イベントなのに一つ下の女子生徒が皆みたいに先輩に対してなんにもしない訳がない、



「ちょっと。こんな所でなにやってんの」

 ぐわし。大凡女の子にはしないであろう力の込め方だった。クレーンゲームでぬいぐるみを取るみたいに、大きな掌がわたしの頭を掴む。…あれ。さっき帰ってなかったっけか。なんで突然背後から現れたんだろう?

「づっ…月島先輩…! 痛い…!」
「遠くから何やってんのかなと思ったら盗み見? シュミ悪」
「好きで盗み見してたわけじゃないです!」
「そう」

 よいしょ。そう言ってわたしの隣に徐に座り込んだ先輩の長い足が放り出されている。よく見ると、さっきもらっていたはずの可愛い紙袋とか綺麗な包装箱は一つもない。

「…? 先輩、チョコは?」
「山口達にあげた」
「えっ!? な、なんで、折角貰ったのに!」
「よく分かんない人から貰うのは気持ち悪い。…って、前も言わなかったっけ」
「き…聞きましたけど…」
「貰っとけば取り敢えずその場は凌げるでしょ。だから建前上受け取っただけ」
「そ…そうなんですか…」

 中々辛辣である。だけど、そんな月島先輩に安心した。ついでにわたしもどきっとしてしまった。さっきまでの自信はどこに行ったのか、「もしかして私も受け取って貰えないかも」なんて考えてしまったのだ。長い溜息を吐いた先輩は「あんなのもう懲り懲り」だって思わず呟いてしまうくらい、バレンタインデーというイベントに嫌気がさしているらしい。

「あの…」
「なに」
「……あの、」
「だからなに」
「私も、…その」
「出しなよ」
「はへ?」
「食べるから出しなって言ってんの」

 一体なんのことだ。首を傾げて眉も潜めていると、物凄く不機嫌そうな瞳とぶつかった。食べるから出しなって。…出しなって、もしかして、そういうこと? 不安になりながら、困惑の「え?」を何度も零していると、腕の中に隠したそれを目敏く見つけられてしまう。なんで分かったの、これが先輩のものだってこと。

「僕はこれしか食べる予定ないから」

 さっさと赤いリボンを解く指は、恥ずかしさでも誤魔化しているみたいにせっかちな動きだ。ぼぼぼって体の中から火をつけられたみたいに熱い。頭の上から噴火しそう。

「…それって私が特別ってことでいいんですか?」
「…」

 お前何今更。って言いたげな目が向けられたと思ったら、突然顔が近付いてきた。…って! ちょっと! その言葉には無言だった癖に、口でのチョコ移しなんてハードル高いことしないでください!