ぎゅうぎゅうと人混みに揉まれながら、なんとか進もうと一歩ずつ足を前に踏み出す。
左右を出店屋台が囲むようにして為された道はどちらが前も後ろもなく、ごちゃりとした人波を分け入っていく他なかった。

もう既にクラスメイト達との待ち合わせ時刻には間に合いそうになく、みょうじは項垂れる。
足元を器用に掻き分けながら進んでいく子供達が少々羨ましいくらいだ。
そんなことを考えていると、身体に違和感を感じた。
尻に触れられている感触だ。
この人混みであるから触れるのも仕方ないと思ったが、やはりそれはずっと彼女の臀部を撫で回して離れない。
そちらに気を取られていると向かいからやって来た人とぶつかってしまい、みょうじは反射的に謝罪する。

「お、みょうじじゃねぇか」

頭上から降って来たのは聴き覚えのある声で、彼女が顔を上げるとそこにはクラスメイトの姿があった。

「切島くん…」

泣きそうな顔をするみょうじに、切島は思わずぎょっとする。
それから彼女の背後で不自然に立ち止まる男がいるのに気が付いて、切島が相手を睨むと怯んで人混みに紛れて行った。

「悪ぃ、ほんとは警察に突き出してやんなきゃいけねーんだろうけど…」
「ううん、ありがとう」

出店から離れ河川敷沿いの公道に抜けると大分人の波は緩やかになったが、それでもまだ人は多い。
切島はまた彼女がはぐれないようにと、彼の背中にぴったり張り付いている柔らかな手を握った。

「これじゃもう合流できそうにねぇな」

それは事実でもあったが、どちらかといえば合流したくない、といったほうが正しかった。
河川敷にぎっしり敷き詰められたレジャーシートの上には大勢の人々が座って居りまるでモザイク画のようであるし、交通規制が掛かった公道にも人が溢れかえっていた。

周囲の喧騒には風情も何も感じられはしないが、隣には彼女がいる。

ぎゅう、と自分の手を握りながらふにゃりと笑う彼女がなにか話しているが、彼の耳には届いていない。
ただじっとその瞳を見つめていると、次の瞬間、破裂音と共に花が咲いた。

次々に空へと打ち上がっては弾ける花火と連動して、その瞳が万華鏡のようにころころと色を変えていくのを飽きもせずにずっと見ていた。
彼女の水晶玉みたいな瞳に突然自分が映って、心臓がどくりと脈打った。

万華鏡ー切島鋭児郎

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