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彼女の目の前には飛び切り笑顔のサイケ。少し自分の耳を疑った。
「…え…?」
思わず聞き返すと、また可愛い笑顔でクスリと。
「だから、津軽ってああ見えてヘタレだから、何もしてこないんでしょ?」
「え、…え?うん、まあ…」
何もしてこない、というのは、手を出してこないということだろうか。確かに付き合い始めて相当な月日が経っているにも関わらず未だにキス止まりだ。別に物足りないとかそういうわけではなかったのだが。
「だからって、それはちょっと…」
「ふーん、今のままで良いんだぁ」
「え、まぁ…」
「津軽の知らないところ、知りたくないの?」
笑顔でとんでもないことを言い出した。にこにこという笑い方がだんだんにやりに変わってくる。こうなると、もう臨也と区別がつかない。
「色っぽい声とか顔とか、こういうときどんな反応するんだろう、とか?」
「…え、」
(それは考えなかった、かも…)
確かにキスした後の津軽の真っ赤な顔、好きだよと耳元で囁いた後の慌てた姿、すごく可愛くて何度でも見たくなる。今からもしそれ以上のことをするのだとしたら、また新しい姿が見られるかもしれないのだ。
「ねぇ、サイケ」
「ん?」
欲しくなっちゃった?と言われると目が合わせられなくなってしまったが。
「…それ、どうやって使えば良いの…?」
(( サイケの企み ))
サイケが言った通りにしている自分にドキドキしていた。まず彼の家に行って彼の部屋へ行く。お茶入れるよ、と声を掛けられたら自分でするから大丈夫だとお茶を入れに行く。これはもう何度かやっているので彼も不審には思わないだろう。
さて、ここからが本番だ。お茶を入れた後、ポケットから小瓶を取り出した。先程サイケから渡された、ある薬。
『これを津軽が飲むお茶にちょっと入れると、がおーって狼さんになるからね。後は津軽に任せちゃって!』
そのとき彼女は首を傾げた。
『どんな薬なの、それ?』
にやりと口角を上げたサイケは、可愛い顔でまた恐ろしいことを口にする。
『即効性で超強烈な媚薬!臨也からやっとのことで貰ったんだから、ちゃんとシてきてよね』
未だ媚薬というものが完全に理解できてなかった彼女にとってはそんなに危ない気もしなかっただろうが。
そんなことを思い出しながら、どのぐらい入れれば良いのかと悩んでいた。
(ちょっとって言ってたよね…どのぐらいがちょっとなんだか)
とりあえず小瓶の半分は入れて良いのかと思い、お茶の中へ混ぜるように入れた。あとどのぐらいかと見計らっていると、突然彼の声。
「名前ー?やっぱり俺がやろうか?」
「えっ!?」
急かされてビクリと肩が跳ねる。遠くから確実にこちらへ向かってくるような足音が聴こえて吃驚したのだ。そんな拍子に手が滑り、小瓶の中身を全部入れてしまった。ただ、どうしようという感情より先に、彼が来る前に小瓶を隠さなきゃ、とポケットに手を突っ込んだ。彼がこちらへ来る頃にはもう形跡も残さず笑顔を浮かべていた。
「大丈夫だったのに」
「いや、少し遅いから、また何かやらかしたのかと思って」
「またって何さ、もう!」
クス、と笑う彼は彼女からお茶を受け取る。
「じゃあ行こっか」
彼女はバレていないことに胸を撫で下ろし、彼の後を追っていった。
彼の部屋に戻り、一息つく。彼は筆で何かを書いていて、彼女はただそれを眺めているだけなのだが。
「津軽、何それ」
「内緒。後で静雄に渡すんだ」
「ふーん…」
静雄に渡す、と言われると何だか見てはいけない物のような気がして目を逸らした。彼と静雄とデリ雄には何か3人だけの事情が有るように思えたのだ。それは臨也とサイケにも言えるのだが。
(それより、早くお茶飲まないかな…)
そう思って視線を送っていたら、彼が苦笑いをして見せた。
「分かったって、2人のときは止めろって言いたいんだろ?」
「え、違、」
「はいはい」
否定しようかと思ったが彼がちょうどそのときやっとお茶を口に含んだのだ。
(あ、飲んだ)
ごくりと喉を通った音がする。それから暫く彼を見詰めていたが何も起こらなかった。
(あれ、意外と普通…?今からじわじわくるのかな…)
即効性だって言ったのに、と心の中で思いながら彼女もお茶を飲んだ。
そこで、異変が起こる。彼にではなくて…彼女に、だ。
口の中に入れた瞬間、じりっと舌が痺れた。驚いて飲み込もうとすれば、お茶が喉を通る時に焼けるような熱さを感じる。次第に身体の内側からじんじんと火照り始め、胃に着いた頃には息が上がっていた。
(何これ…!)
熱さが身体を支配する。呼吸が苦しくなってきて目に涙が溜まっていった。怖くなって後退りしたら身体を動かした際服と肌が擦れて声にならない声が漏れた。
「は…っ」
「…名前?」
異変に気付いたのか、彼は不審そうにこちらを向いた。そして彼女の顔を見るなり、目を見開く。
「どうした?」
「や、やだ…!」
手を伸ばしてくる彼。いつもより冷たく感じる彼の手が彼女の頬に触れると、さっきより高い声が出た。
「んっ、津軽…」
「…その、反応…」
どくんと心臓が高鳴る。彼にもっと触れてほしいという感情が込み上げてくるのだが力が抜けきった身体は動いてくれない。
「つが、る…お茶に、何か入ってた、わけ…?」
自分が彼に薬を盛ったくせに、まさかそれを自分が間違えて飲んでしまったなんて思うはずもない彼女は、弱々しい声で呟き彼を見上げる。
「何もなかったと思うけど…」
すぅっと首筋を指でなぞられ、また甘ったるい声が口からこぼれた。どうしようもなく、ただぞわりと背中に痺れが走るように。
「津軽…っ、あ、もっと、触っ…」
「ッ、お前…」
(媚薬でも飲んだのか…?)
自分の家にそんなものがあるはずない、と思う彼だが。
(でも、この反応…)
思わずごくりと唾を飲む。彼女を優しく押し倒すと、彼女も彼の首の後ろに腕を回した。甘く耳朶を噛めば、きゅうと目を閉じて切なげに声を漏らす。
「あ、つが、津軽…、んんっ」
「…そんな声聴くと、我慢できないよ…?」
舌を首から胸へと這わせながら服を脱がせようとすると、急に大きい声。
「やっ、ああ!」
「え、な、何?」
明らか焦っている彼。過剰な反応をされたら当然かもしれないが。ぽろりと涙を零す彼女に動揺の色しか見せられない。
「服、優しく、して…擦れ、て、何か…っ」
「えっ、そんなに…?」
そんなに些細な刺激でもこの反応。彼は少し不安になる。
(そんなに優しくできるかな…)
とりあえずゆっくり優しく脱がせてやると、いつもの白い肌ではなく、淡く色付いた熱っぽい肌が現れた。胸元を舌でなぞり、手でやわやわと刺激を与える。それだけなのに身体を反らして身を捩る彼女にムラムラと煽られる感情。
「やあっん、津軽、あ、」
「ばか、そんな声…」
頂きを口に含んで転がす。刹那、彼女が身体を震わせたのが分かって。
「…これだけでイけちゃうんだ?」
「やだぁ…言わないで…」
羞恥でぼろぼろ涙を流す彼女を見るとますます泣かせたいと思ってしまう。今までは泣き顔なんて見たくないから、どんな時でも慰めたり守ったりしてきたというのに。見られたくないのか、彼女は手で胸を隠す。そのくせ物足りないと言うように脚を擦り合わせて、遠慮がちにこちらを見上げてくる。
「未だ足りないだろ?」
「そ、んな…」
「嘘。此処は欲しいって言ってる」
抵抗する彼女にお構いなく、ぐいっと脚を広げさせた。嫌とは言いながらそこはもうトロトロで。
「見ちゃやだよ…」
しゃくりあげながら懇願されるが、そうもいかない。彼の胸を押してくる両腕をぐいっと掴み、自分の浴衣に緩く巻かれていた帯を外す。次に彼が何をするのか分かったらしく、彼女は一層じたばたと暴れた。
「や、やだ、つが、っ」
「良い子にしなきゃ気持ち良くできないから」
案の定、その帯で彼女の両腕を拘束し、頭上でまとめあげた。少しは大人しくなった彼女の脚をまた開かせ、顔を近付ける。トロトロになったそこはヒクヒクと物欲しげに津軽を誘っていた。敢えてそこではなく、その少し上で存在を主張しているところへ舌を這わせた。
「や、ああっん、津軽、あっ」
「何?」
「きゃっ、喋んない、で…あ、ん!」
吸い上げると気持ち良さそうに身体を反らす。同時に、更なる刺激を求めて腰が揺れてくる。
「あ、あ、変に、なる…!」
「何が?気持ち良いんじゃないの?」
「だめ、気持ち、良すぎ、て…頭がくらくら、するの…っ」
もう自分でどれだけ恥ずかしいことを口にしているのかも分からないくらいに。彼はにやりと口角を上げた。
「悦いなら別に良いだろ。腰振ってるくせにさ」
「や…あ、だめ、壊れちゃ、」
腕で抵抗できない分、身を捩ってはいるが力が入ってこない。舌を尖らせてぐりぐりと押し付けると、彼女は耳が痛くなるくらいの嬌声を上げた。刹那、びしゃっと大きい水音と共に彼の顔にかかるもの。
「…ッ」
「あ、津軽…ごめ、」
少し白く色が付いている液体がドロリと彼の頬を伝う。彼はにやりと黒く笑った後、彼女に顔を突き出した。
「じゃあ舐めて」
「え、」
「舐めろよ」
ぐいっと顎を掴まれる。拒絶を表すかのように首を振るがまるで無視。秘部にはゆっくりと指が埋まっていく。
「早くしないと奥にはやらないよ?」
「あっあ、なん、で…きゃんっ」
入り口を焦らすように指を往復させる。奥からずくずくとくる疼きで熱が生まれ、身体が更に敏感になっていく。もどかしい刺激に涙を流しながら彼の頬へ舌を伸ばした。ちろちろと舌を動かせば、それに比例して徐々に指が奥へ向かう。喘ぎ声しか出ない口には力が入らず、舐めていた状態のままだらし無く舌が出ていた。唾液が零れ落ちようが構っていられない。
「や…やだやだ、津軽っ、だめぇ…っ」
「だめって何が?」
襲ってくる快感が大きすぎて怖くなる。それなのに、彼はざらついたそこを強く抉るのだ。
「あっ、んゃ…!」
指を回すようにぐりぐりと抉り、愉しげに目を細める。
「そろそろイけるんだろ?」
きゅうきゅうと彼の指を締め付ける口からは止まることなく愛液が溢れ出ていて。
「つ、がる…あ、…!」
ギリッと奥歯からの音がして、彼女は身体を痙攣させた。
その後も何度か達したが、彼と1つになることはなかった。何度も挿れてしまおうかと思ったのだが、彼女の意識がきちんとしているときが良い、と思ったからだ。未だ肩で息をしながら眠っている彼女の頭を撫でる。
(気絶までさせちゃったけど、大丈夫っぽいよな…?)
彼の自身は未だ熱が冷めない。
(名前のナカに入れるまでは、まだ我慢…)
1人で抜くこともなく、徐々に熱が冷めるのを待っている。
(…早くシたいよ、名前…)
頭を撫でる手が止まる。はぁ、と切なげにため息が漏れ、己を抑えるのに必死だった。我慢だと自分に言い聞かせるものの、身体は言うことを聞いてくれない。ちゅ、と眠っている彼女の頬にキスを落とせば、きつそうに存在を主張する自身。
「だから、我慢なんだってば…」
彼は切なげに、またため息をついた。
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