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※翔視点




俺だって悩みはそれなりにあるけど1番の悩みはやっぱりアレ。

「ねぇ見て、あの2人すごくお似合いじゃない?」
「あーほんとだ。男の子、身長高いねー。あの身長差、絵になるー」

そう、名前のこと。最近名前と砂月がやたら仲良いんだよな…。名前は俺のパートナーだし、皆には隠してるけど自慢の彼女。それなりに心配してる。でも名前、作曲のことになると周り見えねーんだよな。砂月とは作曲のことでよく話してるらしい。妬いてねえって言ったら嘘になるけど、名前が勉強になるって言ってるから俺だって我慢してんだ。なのに砂月、なんか知らねーけど名前にはすげー優しいし、周りの皆はあいつらお似合いだって言うし、何なんだよまじで。




(( 理想の男 ))




「じゃあね、さっちゃん!」
「さっちゃんって言うな」
「ふふ、ばいば〜い!」

名前が笑顔で手を振ると砂月が軽く舌打ちをした。それから右手で持ってた眼鏡をかける。もしかして砂月、最近やたら出てくんのは名前と話すためなのか?それだけのため?俺まじで心配。

「ただいま翔ちゃん」
「…あぁ」

教室を出てきた名前は俺に可愛い笑顔を向けた。こういう何でもないときにもドキドキすんのは、やっぱり俺の心臓がぽんこつだからなのか?

「今日ね、さっちゃんにいいこと教わったの」
「いいこと?」
「うん。思い浮かんだいいフレーズを書き綴るのも大事なんだけど、いろんな体験を活かして音に変換するのも大事なんだって。それが1番綺麗に音が輝くって言ってた」
「へぇ」

寮への帰り道はだいたいこんな会話。最近は作曲の話ばっかだけど、砂月を意識してる俺にとっては毎日砂月の話をされてるように感じる。名前はただ作曲に真剣なだけなのに、やな奴だな俺。

「だからいろんな体験したいなー。翔ちゃんのこといっぱい知って、かっこいい翔ちゃんを詰め込んだ曲にしたい。あ、もちろん可愛い翔ちゃんも」
「可愛いって言うな!可愛くねーよ!」
「あはは、そういうとこが可愛い」

名前はけらけら笑うけど、そんな無邪気に笑えるお前の方が可愛いと思う。つーか世界一可愛い。散々笑ってたくせに急に何かを思い出したように あっ と声を上げた。

「そうだ、明日の練習どうする?」
「え?明日?明日も放課後レコーディングルーム借りてやれば…」
「ばか、明日は学校休みだよ?放課後じゃなくて朝からできるの」

でも新しい曲の構成も練りたいなー、と漏らした名前を見て俺は反射的に口を開いていた。

「じゃあデートしようぜ」
「え?」

って!そうじゃない!俺が反射的に口を開いたのは、明日は午後からずっとやろうとかそういう類の誘いだったはず!何だよデートって!

「ちが、あ、名前、」
「あぁ、いいねデート。最近一緒に出かけてなかったし、かっこいい翔ちゃんを発見できる機会も増えるし」
「へ?」

まじ、で?
何だか情けない顔をしてしまったような気もしたけど、まあいいや。本当はめちゃくちゃ行きたかったデート。練習ももちろん大事だけどパートナーと親睦を深めるのも大事だよな…うん、これは彼女としてじゃない、パートナーとしてだ。だからドキドキすんな俺。でも本音を言えば砂月に名前をとられそうで焦ってたのかもしれない。じゃなきゃこんなこと言わないはず。それにしても無意識に口走るとかかっこわるすぎ。

「うーん、何着てこうかなぁ」
「…あんま短いの穿くなよ」
「うん分かった。翔ちゃんはヤキモチ焼きだなぁ」
「ばか、そんなんじゃねーよ」

名前の私服にもすげー期待してるなんてもっとかっこわるいな、俺。







次の日。
結局どこに行きたいか希望もなく、適当にそこらへんで買い物することになった。
つーか名前の私服可愛いよ!やっぱ可愛い!恥ずかしすぎてまじまじ見れねーんだけど可愛い!いい匂いする!

「名前何見たい?」
「ん?んー、適当に服かなぁ」
「りょーかい」
「あ、そうだ、翔ちゃん選んでよ。翔ちゃんが可愛いって言うの着たい」

膝の少し下でふわりと白いスカートを揺らしながら名前は笑った。可愛い。今のお前だって可愛いのにこれ以上可愛くなろうとすんなよ。

「おう、任せろ!」



なんだかんだで俺もノリノリだ。最初は女物の服見んの恥ずかしかったりしたけど、名前に似合うのどれかって本気で考えてたら気にならなくなった。名前はピンクが好きっていうけど、白とか清楚系が似合う。あ、でも大人しめのオレンジとかも似合うんだよな。

「名前、これは?」
「ちょっと可愛すぎない?似合うかなぁ?」
「ほら、似合う」

俺が手に取ったレースのついた淡いオレンジのスカートを見て不安げに眉を下げた名前。腰からスカートを当ててやったらやっぱりすげー似合った。名前はまんざらでもないらしい。

「ほんと?似合う?」
「似合う似合う」
「なんかさ、可愛すぎないかな。これ前の方でレースがまとめてあるじゃん。派手じゃない?」
「これじゃ全然派手じゃねーよ、リボンとかついててもいいくらい。名前、こういうの嫌いだったっけ?」
「ううん、すごく好きだけどなんか自信なくて…」

あ、やっぱりまんざらでもなさそう。名前はちょっとだけ恥ずかしそうにはにかんだ。

それから名前もだんだん素直になってきて、いつもは着ない女の子らしい服にも手を伸ばしていた。

「翔ちゃん、これは?派手?」
「いや、すげー似合うし可愛い」

恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑うから見てるこっちが幸せになる。名前のこと本気で好きって思う瞬間。




その後もアクセやらバックやら見て回って、名前すげー楽しそう。俺も買い物は好きだし人に選んでやるのも得意な方だから楽しい。

「あ、そうだ、靴は?見てく?」

ふと靴屋が目に入って寄ってみる。名前は何故かノリ気じゃなさそう。

「これ可愛いな」
「うん、そうだね…あ、でもこっちの方が…」

入ってすぐ目に留まったサンダルを手に取ったら、名前は目も合わさずに他のサンダルを指差した。でも名前の好きそうなやつとは違う気がする。

「黒?てかシンプルじゃねえ?」
「シンプルでいいんだよ」
「だったら名前、こっちの方が好きなんじゃねーの?」

俺が次に指差したのはいかにも名前が好きそうなやつ。薄いピンクでまとめられていて、控えめなレースと小さいリボンがワンポイントで可愛い。名前は一瞬ぱあっと顔を明るくしたが、すぐに視線を逸らした。

「似合わないよ、こっちのがいい」
「だから、似合うって」
「絶対にだめなの」

名前が強く言い切る。何でだよ、絶対こういうの好きだろ。似合うか似合わないかじゃなくて好きか嫌いかで買い物をする俺には理解できねえ。だいたい名前なんか元が可愛いんだから何したって似合うに決まってんだろ。
そんなこと思ってたら後ろから笑い声が聞こえた。

「あの2人、なんか可愛いね」
「姉弟かな?弟オシャレ〜」
「お姉ちゃんの靴選んであげてるとか優しいね」

…そっか、そういうことか。
チラッとさっきのサンダルを見ると、ヒールが7センチくらいあった。対して今日の名前のサンダルはヒールなし。こんなぺったんこなサンダルより可愛いのは山ほどあんのに。

「俺のせいか…」

言葉にする気はなかったのにそれは自然と口から漏れていて、名前の体が強張った。

「ち、がうよ、翔ちゃんのせいじゃ、」
「俺がちっせえから、格好がつかねーもんな」

心配させる気はねえのに自然とこぼれるもんだから慌てて笑って見せたけど名前はすげー傷ついた顔をしている。あー、くそ、傷ついたのはこっちだっつーの。弟って何だよ、彼氏だよ彼氏。かっこわりい。

「しょうちゃん、」

やっぱり砂月みたいな長身といねーとだめじゃん。絵になるとか言われねーんじゃん。名前に履きたい靴も履かせてやれない男で、しかも心もこんなにちっちゃくて。死ぬほどかっこわりいけど“身長気にしないで好きなの履け”って言えたらまだかっこいいんだろうな。でも俺は言ってやれねえ。あぁ、くそ、こんなんで彼氏とか、言えんのか?

「翔ちゃんってば」
「ん?」
「ねぇ、あの、怒った…?」

顔色を窺うように名前が俺の顔を覗き込んだ。怒られるって思ってんのか。こんな怯えた名前の顔見たことねーし。

「ばーか、何でだよ」

名前の頭をくしゃっと撫でる。本当に身長差、ないんだな。怒るどころかこっちは感謝しなきゃいけないくらい。それにそんな顔させる理由もねーし。

「ちっせえ男でごめんな」

身長も気持ちも。そんな意味合い。名前はまた泣きそうな顔で俺を見つめる。

「っ、しょう、」
「1年。あと1年待ってくれ。…必ず伸ばすから」

抱き着きたいところだけど公共の場だから頭を撫でて我慢。名前本当に泣きそう。うるうるした目でかなり可愛い。

「5センチは伸ばす。再来年はもっと伸ばす。いつかお前に好きな靴履かせてやれる男になる、から」
「翔ちゃ」
「だから、」

名前の手を引いて体を引き寄せる。公共の場だから、本当に一瞬。名前のほっぺにちゅっとリップ音を立てて、さっきの奴らを睨むように見た。えーカレカノだったんだー、なんて聞こえてくる。

「今は我慢してて」

ごめんな、と付け加えるとふるふる首を振った名前がいよいよ泣き出した。あー、可愛い。俺のためにこんなに綺麗に涙を流せる名前が可愛い。後でフットアクセでもプレゼントしてやろってぼんやり思った。







「…1年後、翔ちゃんは努力を続けたけど身長は一向に伸びなかった…」
「おい、言うなよ」




END

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リクエストくださったあおいさまへ。切ない要素がカケラもなくて本気ですみません。本当に苦手で書けませんでした。実は切ないものを全力で狙ってこちらも書いたのですが、書けずに中途半端に終わってしまいました…。切ないものが書ける実力がついたらまた挑戦させていただきます。本当に申し訳ないです。今回は参加ありがとうございました。これに懲りず、これからもよろしくお願いします。
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