バレー部の皆と歩く通学路。『なぁ、黒尾』 一歩先を行く彼を心の中で呼んでみる。後輩らと話し込んでいる彼は、夜久の視線に気付くはずもないし、そもそも気付いてもらおうとも思っていない。別にそれは恋人の余裕とかではなくて、ただ楽しそうにしている彼の姿を見るのが好きなだけだった。 2014/11/10 夜久達が出逢ったのは、言うまでもなく二年前の春のことだ。期待に胸を膨らませて向かった体育館。新入部員の中でやけに目つきが悪いやつがいるな、と最初は思っていた。胡散臭くも人当たりの良い笑顔は、まるで心が全て見透かされているようで、これから彼と上手くやっていけるか不安になったものだ。 2014/11/11 けれども、その不安はすぐに払拭された。そして出会って数ヶ月が経った頃、夜久は彼の新たな一面を見た。昔見たゴミ捨て場の決戦をこの目でもう一度見たいのだ、と言った彼の横顔はとても美しくて、蝉の鳴き声が響く体育館裏で、ほんの一瞬だけ、彼以外の全てのものが存在しなくなったように思われた。 2014/11/12 いつしか夜久にとって黒尾の側にいることは当たり前となっていた。黒尾はいつだって夜久の一歩先にいて、夜久はそんな彼のことを、バレー選手として、友人として、非常に評価していた。そんな彼に対するまっすぐな尊敬心は日に日に大きくなっていき、夜久は無意識のうちにその背中を視線で追っていた。 2014/11/13 最初、その感情が限りなく恋慕に近しいものであることに夜久は気付いていなかった。夜久が自分の気持ちを自覚したのは、ほんの些細なきっかけだった。ある日の昼休み、同じグループの友人らとの間で俗に言う恋バナの話で盛り上がったのだ。好きなやついる?と問われ、最初に思い浮かんだのが彼だった。 2014/11/14 過去には、恋焦がれてやまないその背中が遠ざかったこともあった。研磨との関係を知った時、夜久は自ら手を引こうとしたのだ。自分では黒尾の一番になれないと思った。 けれども、それを黒尾が許さなかった。黒尾は、自分の気持ちから逃げ出そうとした夜久の背を追いかけ、そしてその手を取った。 2014/11/15 その時、後輩達と談笑していたはずの黒尾がふっと振り返る。そして、夜久を目に留めると周囲にはわからないくらい微かに目元を綻ばせた。『衛輔、おいで』唇の形だけで名を呼ばれる。皆がいるところでその呼び方をするな、といつも言っているというのに。怒ってやろうと思ったが、上手くいかなかった。 2014/11/16 駆け寄ると当たり前のように空けられた彼の左側。緩む口元を隠しつつ右側を見上げれば、彼が小さく笑うものだから、溢れる想いを抑えきれなくて「ありがとう」と呟いた。生まれてきてくれてありがとう、俺を選んでくれてありがとうーー。きっと勘の良い彼には伝わったはず。お誕生日おめでとう、鉄朗。 2014/11/17 |
(電車で一度だけ出会った黒尾に恋をした夜久さんのお話。) 2014/11/09 |
(同棲しているふたりのお話。) 2014/11/08 |
(同棲してます。) 2014/11/07 |
2014/11/06 |
馬鹿、と言った彼の頬は林檎のように紅かった。 (同棲している黒夜久ちゃんの朝。) 2014/11/05 |
2014/11/04 |
2014/11/03 |
「さっさと起きろ、主将さんよぉ」わざと乱暴に布団を剥いだ。意外とあどけない彼の寝顔にときめいてなどいない。 2014/11/02 |