PF

本日晴天、波乱あり

※9話あたり



『──本日のパルデア地方は概ね快晴となり……』


 ブレイブアサギ号のミーティング室。
 最後になるかもしれない船旅の実感もないまま、マードックの作った朝食を全員が済ませ活動前のコーヒータイム中。パルデア上陸前に受信した天気予報を見ながら、しばしの団欒を過ごしていた。

 テーブルシティから、私の家がある南側の地域は晴れ。お土産に何を買って行こうか、なんて考えていると隣にいたロイが机から身を乗り出して天気予報を映すモニターに顔を近づけた。顔が明るいで、「リコ、見てこれ!」と興奮気味に私へ呼びかける。

「こらロイ、見えないだろ」

 ロイの背中に向けてモリーが嗜める。

「これ映ってるのってブレイブアサギ号じゃない!?」

「ほら!」としきりに同じ場所を指差している。各地の予報から転換されたお天気カメラに、この飛行船が映り込んでいた。「ほんとだ!」とロイと同様に驚く私を、オリオやマードックは微笑ましく見守っていた。どうやら初めてのことではないらしい。

『あら、お天気カメラに珍しい飛行船が映っていますね。ズームしてみましょうか』

 と、にこにこと笑顔を崩さないお天気キャスターのお姉さんが船に注目したことによって、ロイの興奮がまだ上がる。そこへシャワーを浴びてきたフリードがミーティング室へやってきた。

「ロイ、部屋の外まで声が聞こえてたぞ」

 そんなにはしゃいでどうしたんだ、と椅子を引いてテレビを見る。「お、俺達が映ってんのか」自分の船が映っているのを目にしたフリードは、ロイの興奮の元を理解した。

『んなっ……!』

 突如テレビから聞こえたお天気キャスターらしからぬ声。さっきはどうってことないという目をしていたモリーやオリオも、これにはテレビに注目が移る。テレビ局の方も、何かを察したのかお天気カメラからお天気キャスターのワイプを画面の端に出した。

『な、な、なんでいるの……!? え、待ってなんでワイプ出してるんですか!? ちょっと!?』

 お姉さんのあまりのテンパリ具合に、まるで自分自身を鏡で見ているような気分になった。あんなに視聴者の憧れを向けられそうなお天気キャスターのお姉さんは、真っ赤になった顔を手で覆い隠しながらあたふたとワイプから外れていってしまった。

「おぉ、アステルじゃないか。あいつパルデアのお天気お姉さんになってたのか。変わらないな」

 なんだったんだと終始困惑するミーティング室に不意打ちのようなフリードの言葉が全員の耳を突いて、視線が一点に集まる。

「なんでそんな馴れ馴れしい感じなのアンタ!」

 さっきのロイのように、今度はオリオがフリードに椅子ごと詰め寄った。

「なんでって、言ってなかったか?」

 いつもの常套句に、モリーは「お前の前科なんていちいち数えてられないんだよ」と吐き捨てて続きを促す。

「アステルは前にこの船へ出資してくれたんだ」


 一同、絶句。


「あんた、そんな大事なことをアタシ達に黙ってたわけ!?」

 モリーの激しい雷がフリードに襲いかかった。

「悪気はないんだって……」
「変わらないなって、ずっと前からの知り合いか?」

 マードックの問いかけは空気の清涼剤になった。黙っていたのは間違いなく悪質だけど、なんやかんやで気になるのはそこだった。

「アステルはなんつーか、そう、元々付き合ってたというか……」
「えぇ!?」

 私の声が一番大きく上がった。モリーの剣幕は興味に打ち消され、オリオは「それで!?」と肘を前にしてさらに詰めた。

「いや……まあ結局言葉が足りないって怒らせちまって」

 まあ、それは想像に難くない。満場一致の表情が室内を満たしている。

「……待て、なんでそれで出資なんかしたんだ」

 至極真っ当な意見はやはりマードックだった。

「いやぁなんか……俺が志すものは応援はするからってことで……」

 私、それは都合のいい女だって少女漫画で読んだことがある!
 オリオとモリーの顔が無になった。話の行く末をなんとなく見守っていたロイに、二人の哀愁を帯びた声が向けられる。

「ロイはああいう男になるんじゃないぞ」
「えっ」
「惚れた弱みでパトロンかぁ……お天気キャスターも苦労はしてるもんなんだねぇ」


 勘弁してくれと言いたげなフリードを引き気味な目で見てしまったけれど、その後ろに映る顔から赤みの引かないアステルさんとフリードの強烈な弱点を曝け出すこの並びを見て、ふとなんか、似合ってるな、とか。私は思ってしまったのでした。


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