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二年生秋(8)

※視点変更有 主→雀田


「え!?なにその急展開!!!!凄いじゃん名前!!」

『えへへ。ちょっと、勇気だしてみた、』


サッカーの試合前。一緒に応援に来たトモちゃんにさっきの事を報告すると、トモちゃんは自分の事のように喜んでくれた。ちなみにトモちゃんは私と一緒にバレーに出ていたので、仲良く一回戦敗退した仲だ。「バスケなら勝ってた!!」と悔しがる彼女は、バスケ部の次期キャプテンと言われている。
「やったね!!」とバシバシ背中を叩いてくるトモちゃん。少し痛い気もするけれど、今はそれを止める気も起きないくらい気持ちが浮かれている。赤葦くんと二人でお出かけ。そのうえ、その時の為に連絡先まで交換しちゃったし。まだまだ意識してもらえてるとか、そういう段階には至っていないけれど、少しずつ仲良くなっているのは気の所為ではないだろう。


『赤葦くんが悩んでる所につけ込むって、ちょっとズルかなとも思ったんだけど……』

「何言ってんの!!恋愛なんてつけ込んでなんぼよ!!そうしてガンガン意識させなきゃ!!!」

『…てことはトモちゃんも、男バスの吉田くんにガンガンつけ込んでるんだ〜??』

「え!?ちょ、そ!それとこれとは話が別!!!」


しーっ!と人差し指を立てるトモちゃんにごめんごめんと謝ったところで、ピーッ!聞こえてきたホイッスルの音。どうやら試合が始まるらしい。校庭の中央に整列する木兎たちに視線を戻す。へいへいへーい!と何やら叫んでいる木兎を、木葉がうるせえ!と叩いている。そんな見慣れたやり取りにトモちゃんと二人でくすくす笑っていると、ふとこちらに気づいた木葉と一瞬だけ視線がかち合った。


『頑張れー!!』

「負けんなよー!!」


右手を大きく振ってエールを送ると、少しだけ目を丸くさせた木葉が次の瞬間、ふっと小さく笑んで前へと向き直る。余裕ありげな表情だなあ、なんて感心していると、「あれ?始まっちゃった?」と女子バスケ出場の皆がこちらへ。


『あ、練習お疲れ。まだ今からだよ』

「なら良かった!」

「サッカー見終わったらうちらの試合だね〜」


皆で並んで校庭の隅に座る。「勝てよー!木兎!木葉ー!!」「ファイトー!!!」と声を張り上げる皆に木兎が何やら声を上げて応えている。ヘイヘイヘーイ!とよく聞く叫び声をあげて走り回る木兎。やっぱり運動神経いいなあと感心していると、そんな木兎に木葉からナイスパスが通り、早速一点をもぎ取る。おお、中々順調!これこのまま行けば勝てちゃうんじゃない??そんな期待を膨らませて声援を送ってみたものの、


「クッソー!!!あと一点だったのによおー!!!」

「ま、ベスト4でも良くやった方だけどな」


男子サッカーの結果は準決勝敗退。対戦相手が経験者多かったことを考えればよく競り合えたものである。
「次は女子のバスケだな!」「クラス全員で応援行くぜ!」「あんまり煩くしないでよ」と会話をしながら校庭から体育館へと移動する。グラウンドではもう一つの準決勝が始まった所らしく、他クラスの生徒の声が響いている。
クラス優勝は難しそうだけど、でも、女子バスケだけでも優勝出来たら嬉しいかも。応援頑張ろ。なんて勝手に息巻いたその時、


「あぶない!!!!!!!」

『っ、え?』


聞こえてきた誰かの叫び声。危ない?今危ないって聞こてたような。振り返った先に映ったのは、勢いよく向かってくるボール。あれ、このボール私に向かって来て、


「っ苗字っ!!!」

『っ、えっ…………』


目前に迫るボールとの間に入ってきた大きな手。ドンッ!と派手な音をたててボールが目の前の腕へとぶつかる。一瞬何が起こったのか分からず固まっていると、「っぶねえー!」と手首を摩った木葉がふうっと息を吐く。
ちょっと待って。今、木葉、私を庇って、腕を、


『っ、木葉!!!』

「うお!?な、なんだよ??」

『う、腕!!腕大丈夫!?今、ボールが…!!』

「あ?大丈夫だっつーの。腕にボール当たんのなんか慣れてるし」

『で、でも……!サッカーボール硬いし!予選近いのに……!』


なんでもないとボールをぶつけた手を振ってみせる木葉。本当に、本当に大丈夫なのだろうか。ジャージの袖から見える逞しい腕は微かに赤くなっている。いくらボールを受けるのに慣れているからと言って、サッカーボールなんてバレーボールより硬いし、全く痛くないなんてことはないんじゃないだろうか。
「すみません!!大丈夫ですか!?」「おー!平気っすよー!!」と答える木葉を見上げる。無理してる、って感じはなさそうだけど、でも、やっぱり心配だ。


『ねえ木葉、保健室行って冷やして貰おうよっ』

「はあ?んなことしなくたっていいっつーの。マジで何ともねえから」

『でも……!……試合、近いんでしょ……?万が一があったら怖いし……!私、バレーのことはよく分からないけど……でも!木葉達がバレーを頑張ってるのは知ってるから!!』

「っ、」

『オフの日でもなんだかんだバレーしちゃうくらい、そのくらい大事にしてるって知ってるから!だから………!』


じっと木葉を見つめれば、ぐっと唇を引き締めた木葉が何故か顔を隠すように唇に手の甲を押し当てる。「……わあったよ」と仕方なさそうに答えた木葉に、ホッと息を吐いて一緒に保健室へ向かおうとした時、


「ちょ、ちょいまち!!!」

『?うん?どうしたの?かおり??』

「あ……っと……わ、私が付いてくわ!!その……ま、マネージャーだし!!」

『え?でも、かおり次バスケの試合が……』

「まだ少し時間あるし!絆創膏も欲しかったとこだから!!」


「ほら!行くよ木葉!!!」と木葉の首根っこを掴んで歩き出したかおり。なんだか少し強引なような。


『(………はっ!!!!も、もしかして、か、かおりって、かおりって、木葉のこと………!!!)』


そ、そういうことか。そういうことだったのか、かおり…!だからあんな少し強引に……!歩いていく二人の背中を見送っていると、「なんか絶対勘違いしてるねー、名前、」と雪絵にトンっと肩を叩かれる。え?と顔だけ雪絵を振り向くと、苦く笑った雪絵が二人の後ろ姿を見て少し困ったように眉を下げた。


「………不運な奴だね、木葉も」

『え??……あ、ボールのこと?あれって木葉がって言うより、私の方が不運だったんじゃ……』

「そっちじゃなくてー。……ま、いいからとりあえず体育館向かうよー」


そう言って私の腕を掴んで歩き出した雪絵。そっちじゃないって、じゃあ、どっちの事だったのだろうか。






            * * *






「で?何よ??」

「何って………」


保健室に常備されている湿布を木葉の手首に貼る。マネージャーだからとか何とか言って付いてきたけれど、学校生活でもコイツらのサポートをする気なんてサラサラない。と言うか、本当に何ともなさそうだったし。
けど、不安になったのは本当だ。あの時、名前に見上げられた木葉の顔。

“私、バレーのことはよく分かんないけど……でも!木葉達がバレー頑張ってるのは知ってるから!!
オフの日でもなんだかんだバレーしちゃうくらい、そのくらい大事にしてるって知ってるから!だから………”


「(ああ言う事を素直に言えちゃうのが名前のいい所でもあるけど……でも、それでまさか、木葉が傾いちゃうなんて………)」

「……心配しなくても邪魔したりしねえよ」

「っえ………」


思わぬ台詞に顔が上がる。既に私の言いたいことが分かっているらしい木葉は、何かを諦めるような笑みを浮かべる。


「どうせ釘刺そうとしたんだろ。んな事しなくても、苗字と赤葦のこと邪魔したりしねえっつの」

「……知ってるの?名前が、その……赤葦を好きだって」

「おー。前に赤葦と二人で話す苗字のこと見ちゃったからな」


湿布の貼られた腕を擦りながら僅かに俯いた木葉の顔。なるほどね。それで知っちゃったのか。名前が赤葦を好きだってこと。あの子も中々分かりやすいからなあ。
苦く笑って湿布を棚へと戻す。赤葦を好きになってから名前はどんどん可愛くなっていく。好きな人に可愛く見られたいと頑張るあの子を応援したい。でもまさか、そんな可愛くなる名前を、


「(木葉が惚れるとか思わないじゃん!)」


少し荒っぽく棚の戸を閉める。好きな相手がいる子を好きになるなんて、木葉ってやっぱり。


「ドM?」

「なんでだよ!!」

「だってわざわざ赤葦のこと好きだって分かってる名前を好きになるから……茨の道を進むのが好きなのかなって……」

「んなわけあるか!!!…………つーか、好きになろうと思ってなるもんでもないだろうが、」

「それは………」


確かにその通りだ。名前はいい子だ。だから、木葉が名前を好きになること自体は別に不思議なわけじゃない。でも、


「……応援しないからね。私や雪絵はバレー部のマネージャーで、あんたは大事な仲間だけど!……でも、名前も大事な友達だから……だから私は、名前の恋を応援するよ」

「おー、別にいいよ。さっきも言ったけど邪魔するつもりはねえし」

「……自分の方振り向かせたいとかないわけ?」

「ねえ事もねえけど、でも………俺が最初にいいなって思った苗字は、赤葦のこと想ってる苗字だし。第一、苗字に気持ち伝えたりなんてして困らせたいとか思わねえから」

「木葉、あんた………」

「赤葦を思って頑張ってる苗字の気持ちに横槍入れて、そんで困らせて、結果振られて、今の関係全部壊して。ただただ苗字傷つけるなんてそんなんしたくねえし。それに、まだ自覚して日も浅いからなー。もしかしたら、案外すんなり諦められるかもしんねえじゃん」


からりとなんて事なさそうに笑ってみせる木葉。どうやら本当に邪魔をする気はないらしい。
馬鹿なヤツ。そんな見え見えな嘘ついちゃって。自覚して日が浅いってことは、これからもっと名前のこと好きになる可能性があるってことじゃん。それをすんなり諦めるなんて、そんなんできる訳ないじゃない。大体、あんな分かりやすい反応見せといて、この先本当にその気持ち仕舞って置けるのだろうか。
言いたいこと、聞きたいことはまだある。あるけれど、今の木葉にそれを聞くのは酷だろう。もう一度木葉に向き直る。なんだよ?というように片眉をあげる木葉に、思わず深いため息が。


「不自由な恋してんね、あんたも」

「うっせーよ、ほっとけ」


しっしっ!と払うように手を動かす木葉が立ち上がる。「次試合あんだろ」と急かす木葉に、はいはいと応えて体育館へと向かうことに。
なんでこう、矢印の向きが上手く噛み合わないのだろうか。ほんと、恋ってままならない。
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