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二年生秋(7)

球技大会当日。ちょこちょこ練習しつつ迎えたバレーはアッサリと一回戦敗退。まあ、経験者も一人しか居なかったし、ちょっと悔しいけど仕方ないだろう。
代わりとばかりに女子バスケと男子サッカーは勝ち上がっており、午後一は男子サッカーの準決勝の応援だ。昼休憩の間に飲み物を買おうと自販機へ向かうと、中庭の自販機で見つけた黒いくせっ毛頭。あ、あれは、


『赤葦くん!』

「あ、苗字先輩、」

『お疲れ様』

「お疲れ様です」


ペコ、ペコっとお互いお辞儀をし合い、揃って自販機前へ。「何買うの?」と尋ねれば、「スポドリを買おうと思って」という声に、500円玉を入れて自分用の紅茶とスポドリを一本ずつ購入する。


『はい、これ』

「え、」

『まだ練習付き合って貰ったお礼してなかったから』


「一回戦で負けちゃったんだけど」とへらりと笑いながらスポドリを差し出せば、「……ありがとうございます」と微笑みながら受け取ってくれた赤葦くん。断らないのは、赤葦くんなりに私を気遣ってくれたんだろうなあ。優しいなあ。なんてまた一人でときめいていると、「木兎さん達は勝ち上がってるみたいですね」と赤葦くんの視線が校庭の方へ。


『あ、うん。うちは男子サッカーと女子バスケが残ってるよ』

「流石というかなんと言うか……」

『赤葦くんのクラスは??』

「男子バスケが残ってます。後は負けちゃいました」

『てことは赤葦くんのサッカーもか……見たかったけどな……』

「俺、別に上手くないので、見ても面白くないと思いますよ?」


そういうことじゃないんだけどな。ただ、いつもと違うことをしている赤葦くんが見たかったという意味なのだけれど。
最近分かってきた。木葉の言う通り、赤葦くんは結構鈍感らしい。意識してもらうには中々直球に攻めないといけないみたいだけど、一体どこまで直球に言えばいいのか難しいところである。


「……あの、苗字先輩、」

『うん?なに?』

「いえ、その………少し聞きたいことがあるんですけど……」

『聞きたいこと?なに??』

「…………あの…………」

『うん?』

「……………いえ、やっぱりなんでもないので気にしないでください」

『え、』


くるりと赤葦くんが踵を返す。何今の。今絶対なにか言いたいことがあったんだよね?なのになんで突然辞めたの??私何か変なことしたっけ??
歩いて行こうとする背中を見つめる。聞きたいけれど、ここで食い下がるのはウザがられるかもしれない。気になるけれど諦めるべきかなと自分も教室へ戻ろうとしたのだけれど、


『…………あ、赤葦くん!』

「っ、………はい、なんですか?」

『いや、その……ごめん、やっぱり気になって……なんて言おうとしたのか聞いてもいいかな??』


好奇心に勝てず、ついつい赤葦くんを追いかけてしまった。馬鹿か私。これでウザいと思われたら自業自得にもほどがある。内心自嘲しながらも、じっと赤葦くんを見上げると、うっと言葉を詰まらせた赤葦くんは珍しく視線を泳がせ、それから顔を隠すように右手で口元を覆ってみせた。


「……実は今度、中学時代の友人の誕生日を祝うことになって……その……誕生日会みたいなノリで集まるんですけど、何かプレゼントを用意しなきゃならなくて。……でも、何を渡せばいいのか検討がつかず……」

『……えーっと……それを私に聞くって事はその友達って…………女の子、だよね?』

「……はい……けど、女性が喜ぶものって分からなくて困って……」


眉を下げて頬をかく赤葦くんは本当に困っているようだ。羨ましい。赤葦くんからプレゼントを貰えなんて、なんて羨ましい子なんだ。そんな権利ないと分かっているのに嫉妬してしまう自分がいて、そんな自分を振り払うようにブンブン頭を振ると、突然の奇行にビクッと赤葦くんの肩が大き揺れた。


「あ、あの……?」

『え!あ、ご、ごめんね!なんか虫が居たように感じて!!…………えっと、女の子にあげるプレゼント、だよね?………ひとつ聞きたいんだけど、その子って、その……赤葦くんの彼女とか……?』

「………いえ、そいつは普通に友達ですよ。仲良かったら連中と何人かで集まってわいわい祝おうってなってるだけなんで」

『そ、そっかあ……』


とりあえず彼女ではないようだ。良かった。ホッと胸を撫で下ろす。これで実は彼女がいました、なんて返されてたら、立ち直れなかったかもしれない。
「すみません、こんな事聞いて……」と気恥しそうに目をそらす赤葦くん。その頬っぺたがほんのりと赤くなっていて、いつもとは違うその様子が可愛くて、胸がキュンと音を立てる。


『ぜ、全然いいよ!大丈夫!……でも、私もその子の事知らないから、具体的に何をあげたらいいとかは言えないんだけど………その子って好きな物とかないの??』

「………………好きな物……………」

『…………』

「…………」


あ、これ、知らないだな、多分。申し訳なさそうに眉を下げる赤葦くんには悪いけれど、安心してしまう自分がいるのも事実で、私って性格悪いなと苦く笑ってしまう。
とはいえ、このまま何もアドバイスをしないというのも可哀想だろう。何かほかに出来ることはないかと考えていると、「あ、」と思い出したように赤葦くんが小さく声を上げた。


「……そう言えば、甘い物が好きだって聞いたような……」

『その子が言ってたってこと?』

「いえ、そいつと仲良い奴が言ってたんです。この前も一緒にスイーツバイキングに行ったとか……」

『なら、無難にお菓子かな。でも誕生日プレゼントにあげるなら、普段自分じゃ買わないような少し高いお菓子がいいかも。あと、女の子にあげるなら見た目も可愛い方がSNSに上げたりもできるし、』

「見た目が可愛いお菓子………」


赤葦くん、なんか凄い困ってる。男の子からしたら、“可愛いお菓子”なんて言われてもあんまりピンと来ないのかもしれない。どこかお店とか教えてあげようかと思った矢先、ふと頭に思い浮かんだ考え。
そうだ。教えてあげるんじゃなくて、一緒に選びに行けば、それって、

赤葦くんとデート出来るチャンスじゃん。


『あ!あの!』

「え、あ、はい??どうしました??」

『もし良ければなんだけど……一緒に選びに行こうか?』

「え、」

『いや、その……赤葦くん、“可愛いお菓子”がピンと来てなかったみたいだから……!だから、その……一緒に見に行ったら少しお手伝いできるかなって、』


つらつらとそれらしい理由を並べてみたけれど、結局は“赤葦くんと二人で出かけたい”ってただそれだけ。振り向いて貰うために頑張るって決めたからには、少しでもあるチャンスを全部利用してなんぼだろう。
少しの沈黙が走る。いくらなんでも押し付けがましかっただろうか。訂正するなら今しかないけど、でも、折角勇気をだして口にしたのだから、それを自分から訂正するのは勿体なくてしたくない。だから、例え断られたとしても、「いいんですか、」


『っえ?』

「その、お願いしても、いいんでしょうか……?」


申し訳なさそうに、気恥しそうに向けられた視線。いつもの冷静な赤葦くんとは違うちょっと可愛らしい一面を、どれだけの人が知ってるのだろうか。私だけが知ってる、なんてそんな自惚れたことは言えないけど、でも、せめて、


『うん!もちろんだよ!!』

「じゃあ……お言葉に甘えて、お願いします」


今こうして私に向けてくれる笑顔だけは、どうか、私だけのものであって欲しい。そう思ってしまうのもやっぱり私のわがままなのだろうか。
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