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三年生春(11)

「名前、今日だっけ?木葉のお詫びケーキ」


放課後。ホームルーム後の少し騒がしい教室内で首を傾げるかおりに、うん、と一つ頷き返した。

木葉との喧嘩アンド仲直りの日から約二週間が過ぎた。
黒尾くんと連絡先を交換したと言う私に、何故か酷く苛立っていた木葉。出会い方が出会い方だっただけに、私のことを心配してくれたのもあったのだろうけれど、苛立ちをそのままに鋭利な言葉を投げつけて来た木葉に、上履きを投げつけて逃げ出した私。そんな私を追いかけて来た木葉はごめん、ごめんと何度も何度も謝罪を繰り返してきて、そんな木葉に仲直りの条件として提示したのが今度のオフの日にケーキを奢ってもらうというものだった。


「もっと高いものでもバチ当たらないのに。あの馬鹿、かなり言い過ぎてたし」

『いいのいいの。もう十分謝ってもらったから』

「甘いなあ、もう」


呆れたようにため息を吐くかおりにへらりと笑って返す。
「で、その木葉は?」「進路のことで担任に呼び出されてるよ」「ああ、進路か」と他愛のない話をしながら木葉が戻ってくるのを待っていると、「かおりー、名前ー、」とそこに雪絵も合流し、久しぶりに三人でだらだらとお喋りをすることに。
今日行くカフェの話や、新しく出来た雑貨屋さんの話。今朝のニュースで見た芸能人の結婚のことなどを話しながら、木葉を待っていると、「わり、お待たせ」と先生から開放された木葉が教室に戻ってきた。


「やっと来た」

「女の子待たせるなんて最低ー」

「………この間から言いたい放題色々いいやがって……」

「名前が甘い分、うちらが鞭になんなきゃね」

「そーそー」


自分の席に置いていたカバンに手を伸ばしながら、頬を引き攣らせた木葉。「やっぱりうちらもついて行こうかなー」「あ、そうする?」とやけにニヤニヤとした顔で言うかおりと雪絵に「ぜってえ来んな!」と釘を指した木葉はカバンを肩に掛けると「行くぞ!苗字!!」と大股で教室の出口へ向かおうとする。
そんな木葉に苦く笑って「行ってくるね」と二人に声をかけると、イタズラっ子のように笑った二人は行ってらっしゃいと手を振り返してくれた。
二人に手を振り返しつつ、教室を出て下駄箱へ向かうと、先に出ていった木葉の姿が。既に靴を履き替えており、ポケットに手を入れて待っている木葉はちょっと拗ねたように唇を尖らせていて、それが少し可愛くて、ふふっと小さく笑っていると、「……んだよ、はよ行くぞ」とぶっきらぼうな声に急かされて、慌てて靴を履き替えることに。
二人並んで校舎から校門の方へと歩き出す。そう言えば、学校の外で木葉と二人って初めてかも。チラリと隣を歩く木葉を見上げれば、いつも通りの穏やかな顔をした木葉がいてくれて、その横顔にホッと安心するように胸を撫で下ろした。

はずだったのに。


「よ、この前ぶり」

「……てめえ黒尾……!なんでお前がここに居んだよ……!」


校門を出てすぐ掛けられた声。二人で足を止めて声の方を見ると、いつかのように片手を上げて挨拶をして来る黒尾くんの姿が。さっきまでの穏やかな表情が嘘のように、目くじらを立てて黒尾くんを睨む木葉。やっぱり黒尾くんのこと嫌いなのでは?と二人の顔を見比べていると、そんな私に気づいた黒尾くんが、「どうしたの?名前ちゃん?」と小さく首を捻ってきた事で、何故かピシリと木葉の動きが固まる。


「……な、なんだよその馴れ馴れしい呼び方!こんなとこで待ち伏せまでして……ストーカーか!!」

「ひでえ言われようだな。ちゃんと本人に許可取って“名前ちゃん”って呼んでるのによ。なあ?」

『あ、う、うん。確かに名前で呼んでいいかって聞かれて、いいよって答えたけど』

「ぐっ……」

「それに、今日ここで待ってんのは名前ちゃんを待ってた訳じゃなくて、

「あ!おーい!!黒尾ー!!」


張り上げられた声に、来た来たと言うように黒尾くんが振り返る。ブンブン手を振りながらやって来たのは我らがバレー部エースの木兎で、どうやら黒尾くんは木兎と待ち合わせをしていたらしい。
「やけに遅かったな?」と尋ねる黒尾くんに「課題忘れた罰掃除受けてた!」と元気よく答えた木兎。あまりに木兎らしい理由である。怒る気も湧かないらしい黒尾くんは、ははっと乾いた笑みを浮かべると、再び木葉の方を向き直り、「で?ストーカーがなんだって?」と挑発するように口角をあげた。


「っ……わ、悪かったよ!!俺の勘違いでした!どうもすみませんでした!!」

「分かって貰えればいいんですよ」

「?なに?何の話??つかなんで木葉と苗字もいんの??お前らも一緒にバッティングセンター行くの??」

『バッティングセンター??』


意外な単語に思わず聞き返す。だってバッティングセンターって、木兎の口からバッティングセンターって出てくるなんて。キョトンとした顔で木兎を見上げていると、代わりとばかりに「たまに行くんだよ、コイツの気分で」とため息混じりに木葉が教えてくれる。


『そうなの??なんか木兎が……っていうか、バレー部の皆がバット持ってるの想像出来ないや』

「だろうな」

『……………打てるの?』

「おいこら馬鹿にすんな」

「未経験者でも意外と打てたりするもんだぜ」

「……まあ、木兎に関しちゃ、空振りかホームランの二択で、九割空振りだけどな」


うわ、目に浮かぶ。
バットを持って悔しがる木兎が何度何度も挑戦している姿を思い浮かべて思わず笑っていると、「にしても音駒とオフ日重なるの珍しいよなー」と零した木兎に「貴重なオフに付き合ってやってんだ、有難く思え」と黒尾くんが冗談を返す。やっぱり仲良いんだな、この二人。木葉も黒尾くんのこと嫌いではないって言ってたけど、なんで当たりが強いんだろ。未だにどこか敵視するように黒尾くんを睨む木葉に首を傾げた所で、「……もう行こうぜ苗字、」と木葉の声が掛かる。そんな私たちに目敏く気づいた黒尾くんが、「なに?デート?」と問い掛けて来たので、違う違うと首を振って笑い返した。


『駅前のカフェでケーキ奢ってもらう約束してるの』

「へえ。けど、それってデートじゃねえの?」

『友達と出掛けるのはデートって言わないんじゃない?』


ね?と同意を求めて木葉を見上げれば、何故か胸を抑えた木葉が「そ、そうだな……」と引き攣った顔で答えてくれる。そんな木葉と私のやり取りをじっと見つめていた黒尾くんは、何を思ったのか意外な提案をしてきた。


「…なら、二人も一緒に行かねえ?バッティングセンター」

『え?』

「はあ???」


思いもよらぬお誘いに瞬きを数回繰り返す。
「お前話し聞いてた??」と頬を引き攣らせる木葉に、もちろんと言うようににっこり笑って頷いた黒尾くん。そんな彼の態度が気に入らなかったのか、こめかみに青筋を浮かべた木葉は詰め寄るように黒尾くんとの距離を縮める。


「俺らは今からカフェに行くって言ってんだろうが?あ?」

「だから聞いてたっつーの。けど、デートじゃねえんだろ?デートなら邪魔しちゃ悪いかなって思ったけど、そうじゃねえなら別にいいかなって」

「よくねえよふざけんな」


二人の間にバチバチと火花が散っているように見えるのは気のせいだろうか。やっぱり木葉と黒尾くんって相性が良くないのかも。
「ちょっと木葉、」と咎めるように木葉の制服の袖を引っ張るとチッと舌打ちを零しながらも黒尾くんから離れる木葉。「付き合ってられっか」とくるりと背を向けて歩き出そうとした木葉だったけれど、その姿にニヤリと少し意地の悪い笑みを浮かべた黒尾くんは、木葉の背中に揶揄うような声を投げた。


「あれれ〜?木葉くんってば逃げちゃうんですかー?」

「…………はあ?」

「まあ仕方ねえか。バレーは上手くてもバッティングが上手いとは限らねえだろうし。何より……空振りばっかのかっこ悪い姿を名前ちゃんに見せられねえもんな??」

「ざけんな!!んな下手じゃねえわ!!!!」

「どうだかなー。見栄張るだけならいくらでも出来るしよー」


ニヤニヤと意地悪く笑う黒尾くん。
挑発だ。ものすごく分かりやすい挑発だ。黒尾くんってこういう一面もあるんだ、なんて少し意外に思いながら二人のやり取りを見つめていると、背を向けたはずの木葉が再び戻ってきて、黒尾くんの前へ対峙した。


「上等だ!!そんなに言うなら直に俺のバッティング技術を見せつけてやんよ!!!」



『………木葉………』


分かりやすい挑発にまんまと乗ってしまった木葉に苦く笑う。思惑通りに事が進んだ黒尾くんは「楽しみにしてるわ」と愉しそうにケラケラと笑っていた。
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