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二年生冬(2)

私が知っている赤葦くんの好きなもの。

本と、バレーボール。
今はそのくらい。

プレゼントをあげるなら、喜んで貰えるものをあげたい。でも、バレーの道具はよく分からないし、本はちょっと色気がなさすぎる。悩みに悩み、何するか考えた結果。


「栞?」

『うん』


赤葦くんの誕生日プレゼントに選んだのは、羽をモチーフにしたちょっと小洒落た栞だ。「いいじゃんいいじゃん!」と褒めてくれるかおり達に気恥しさから小さくはにかむ。本が好きな赤葦くんなら栞だって使うだろうし、そこまで高価なものでもないから、この前のお菓子のお返しも兼ねてと言えば気兼ねなく貰ってくれる……はず。
誕生日当日、プレゼント用にとラッピングした栞を大事に抱えて迎えた昼休み。図書委員の仕事があるため、書庫へとやってきたのだけれど、一応プレゼントも持ってきている。もしかしたら赤葦くんが本を借りに来るかもしれないし。


『(喜んでくれるかな、赤葦くん………)』


返却された本を棚に戻しながら、ポケットの中に入れたプレゼントを確認する。出来れば誕生日当日に渡したいのだけれど、今日赤葦くんに会えるかどうかは分からない。


『……来てくれないかな……』

「?誰か待ってるんですか??」

『!?!?え!?!?』


ポツリと呟いた独り言に返ってきた声。ギョッと目を見開いて声の方を振り返ると、きょとりと不思議そうに瞬きを繰り返す赤葦くんの姿が。


『あ、あか、赤葦くん……!!』

「え、あ、はい。赤葦です」

『あ、え、あ…!ほ、本??本借りに来たの??』

「あ、はい。本を借りに来ました」


分かりやすく慌てる私に、不思議そうに首を傾げつつ答えてくれる赤葦くん。馬鹿か私は。一人動揺して怪しいにも程があるでしょ!!自分を落ち着かせる為にも小さく小さく息を吐く。改めて赤葦くんと向き直ると、「?どうかしたんですか?」と少し心配そうに眉を下げられる。


『い、いや、どうかしたとかはないんだけど……その……』

「?」

『こ、これ!誕生日おめでとうございます!!!』


ポケットの中から取り出したプレゼントを勢いよく差し出す。何事も勢いが大事。ここで渡せなきゃきっとずっと渡せない。
顔が俯く。きっと今私、顔真っ赤だ。
何も言わずにただじっとプレゼントを差し出していると、両手に持っていたプレゼントがスっと手から離れていく。ゆっくりと顔を上げ、おそるおそる赤葦くんの様子を確認すると、いつもより少し目を丸くさせた赤葦くんがじっとプレゼントを見つめている。


「……開けてもいいですか?」

『う、うん』


頷き返した直後、綺麗にラッピングされた包みが丁寧に開かれていく。喜んでくれるかな。要らないって言われないかな。ううん、赤葦くんはそんな事言わない。赤葦くんなら、きっと、


「…栞、ですよね?」

『う、うん。赤葦くん、本好きだし……。あ、あのね、ほら!私、お礼とかで赤葦くんにお菓子とか貰っちゃったりしてたから…!そのお返しも兼ねてのプレゼントって言うか、』

「こんな素敵な栞、本当に頂いていいんですか?」

『も、もちろん!赤葦くんの為に選んだんだもん!』

「………ありがとうございます、苗字先輩」


あ、ほら、やっぱり。


笑ってくれた。


胸が温かくなるのと同時に、ギューッと苦しくなって、もっともっとこの笑顔が見たいってワガママになってしまう。
「使わせてもらいますね、これ」とあげた栞をポケットの中へ仕舞う赤葦くん。よかった。ちゃんと喜んでくれてるみたいだ。「……ありがとう、」と受け取って貰えた嬉しさからついお礼を言うと、「なんで苗字先輩がお礼言ってるんですか」とおかしそうに笑われる。
最近、こんな風に気を許した笑顔を見せてくれる事がたまにある。クスッと控えめな微笑みも、思わずって感じで見してくれる笑顔も、どれも凄く素敵だなって思うけど、でも、やっぱり私は、最初に見せてくれたあの笑顔が忘れられない。見ているだけでこっちまで笑顔になってしまいそうな、そんな、愛おしさを詰め込んだみたいな笑顔だった。
きっとあのキーホルダーは赤葦くんにとって、すごくすごく大切なものだったのだろう。


『……ねえ、赤葦くん、』

「?はい?」

『最初に会った時に拾ったキーホルダー、渡した時にすごく、その、見つかって嬉しそうだったよね?大事なものなの?』

「……そうですね。人から貰ったものなので」

『あ、なるほど。貰い物だったんだね』

「はい。……もう随分古くなっちゃいましたけど……」


少し寂しそうに目を伏せた赤葦くんが本の背表紙を撫ぜる。そう言えばあのキーホルダー、お世辞にも新しいものとは言い難いものだった。「中一の時に貰ったものなんで、」と付け加えられた言葉に、「そんな前から大事にしてるものなんだね」と少し驚いた声を返すと、懐かしそうに目を細めた赤葦くんが小さく頷いた。


「そろそろ外した方がいいかなとも思うんですけど…中々手放せなくて、」

『気に入ってるなら外す必要ないんじゃないかな?大事なものなんでしょ?』

「…そう、ですね。…でも、大事だからこそ、仕舞っておいた方がいい物もあるんじゃないでしょうか」

『確かにこの前みたいに落としたりする事を考えたら、持ち歩かない方がいいのかもしれないけど……でも、赤葦くんは手放したくないんでしょ?どんな風に大事にするかは赤葦くん次第なんだから、そのままでもいいと思うよ』

「どんな風に大事にするか……確かに、その通りですね、」


穏やかに、嬉しそうにそう言って微笑んだ赤葦くん。こんなに沢山赤葦くんの笑顔が見れるなんて、今日はついてる。
「プレゼント、本当にありがとうございます」ともう一度お礼を言う彼に、とんでもない!と大袈裟に首を振り返すと、そんな私にくすくすとおかしそうに赤葦くんは笑ってくれた。
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