×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

二年生冬

「赤葦の誕生日なら、12月5日だよ」

『12月5日……!まだ過ぎてない……!』


パアッ!と分かりやすく喜色ばんだ私に、「お前もう隠す気ねえだろ」と木葉が呆れたように声を掛けてくる。だって今周りに木葉とかおりと雪絵しかいないし。
十一月下旬。バレー部の春高予選も終わり、木葉たちは無事に春高出場の切符を手に入れたらしい。流石である。春高本戦は一月上旬。本戦は全校応援となるため、必然的に応援に行けることになる。予選は家の用事で見に行けなかったし、楽しみだ。最近は赤葦くんも試合に出ることが多いらしいし、早く見てみたいなあ。
ユニフォームを着てバレーをする赤葦くんの姿を思い浮かべていると、「乙女顔だ」「乙女顔だねえ」とかおりと雪絵にニヤつかれる。ハッとして隠すように両手で顔を覆うと、「で?なにあげるの??」とかおりに顔を覗きこまれる。


『……あー……それはまだ決めてなくて……』

「え?ちょ、大丈夫??あっという間に12月だよ??」

『そ、それは分かってるんだけど……あからさまに好意が伝わるものは避けたいなって……』

「えー?逆にわっっっかりやすい物あげた方が赤葦も名前のこと意識するかもよー??」

『た、確かに……!……でも、あんまり高価なものとかだと、赤葦くんの迷惑になるでしょ?だからといって消耗品は味気なさ過ぎるような………あー…!!!迷うっ……!!!』

「恋する乙女は悩みも多いねえ」

「いいじゃんいいじゃん。好きなだけ悩んで決めな決めな」


むふふ、と楽しそうに笑う二人に少し頬が熱くなる。「そろそろ席つくか」「だね」と自分の席に戻る二人を見送っていると、「……楽しそうだな」と隣から声が。


『そ、そりゃ楽しいよ。好きな人にあげるものを考えられるんだもん。楽しくないわけないじゃん』

「……ふーん、そういうもんかねー」

『そういうもんだよ。……なんて、私も最近気づいたんだけどね』


顔を覆っていた手を外し、少しだけ木葉に顔を向ける。照れ臭さからへらりと笑うと、「なんだそれ?」と怪訝そうに首を傾げられる。


『もっと話したいってなったり、手作りのお菓子を食べて欲しいって思ったり、連絡先教えて貰えただけで大袈裟に喜んだり、自分があげた物でどんな顔をしてくれるのか見てみたいなって思ったり、……そう言うの全部、赤葦くんを好きになってから知ったことだから、』

「……中学の時とか、好きなやついなかったのかよ?」

『……好きな人は確かにいたけど……でも、その人に“恋”してたって言うよりは、“恋”に恋してたって言うか………好きな人がいるっていう状況に満足してたって感じだった気がする。だから、こんな風に誰かに振り向いて欲しいって、その為に頑張りたいって思うのは、赤葦くんが初めてなの』


赤葦くんに出会って、ちゃんと“恋”をする自分を知れた。私も、誰かのために頑張ることが出来るんだって知ることが出来た。


『私、部活も入ってないし、毎日毎日何となく過ごしてた。でも、赤葦くんに振り向いて欲しいって思ってからは、朝早く起きて、自分でお弁当を作ったり、メイクしてみたり、髪型を変えてみたり……好きな人の為に頑張れる自分がいるって知れた。全部全部、赤葦くんを好きになったから気づけた』

「………」

『だからね、私、今の自分を結構気に入ってるの。好きな人の為に頑張れる自分になれて良かったって思ってる。……でも、折角頑張るなら、やっぱり結果が伴ってくれたら嬉しいじゃん。絶対に振り向いてくれるなんて保証はないけど……でも、できる限りのことはしたい。赤葦くんを好きになった自分の為にも』


“ありがとうございます、苗字先輩”


あの時の笑顔を思い出しただけで、胸の奥に広がる温かな気持ち。この気持ちを大事にしたい。大事にしたいから、悩みも尽きないのだろう。
「なんか偉そう語っちゃって恥ずかしい」と誤魔化すように笑って頬を掻くと、今まで黙って話を聞いていた木葉が何か言いたげに一瞬口を動かす。けれど、開いた唇は直ぐ様閉じられてしまい、それと同時に、振り切るように木葉の顔が前を向いて逸らされてしまう。もしや話し過ぎて引かれただろうか。「あ、あの、木葉…?」と反応のない木葉に声を掛けると、顔を隠すように頬杖をつかれてしまい、ますます心配になってしまう。き、気持ち悪いとか思われたのだろうか。赤葦くんは木葉の後輩なわけだし、可愛い後輩のことを好きだの何だのベラベラと話す奴ってもしかして相当うざ「やっぱスゲエよ、お前」


『っ、え?』

「好きな奴の為に頑張れて、そんな自分をちゃんと大事にして……スゲエよ。スゴ過ぎて、なんか、」

『……なんか?』

「……………聞いてるだけで胸焼けしそうだなって思ったわ」

『そ、そこまで甘ったるい話はしてないでしょ!』

「へーへーご馳走様です」


右手で頬杖をついたまま、左手を躱すようにヒラヒラを払われる。相変わらず顔は見えないけれど、でも、どうやら怒らせたとかではないらしい。ホッと胸を撫で下ろしたのと同時に、チャイムが鳴る。クラスメイトたちが少し慌ただしく席について行く中、隣から聞こえてきた小さな小さな呟き。


「赤葦のやつが、羨ましいよ、」

『?今、何か言った??』

「……いーや、なんも」


聞こえたと思った声は、どうやら気の所為だったらしい。
……兎に角今は赤葦くんへのプレゼントを考えなければ。朝のホームルーム。担任の先生の話を聞く片隅で、喜んでくれる赤葦くんの顔を思い浮かべて、小さな小さな微笑みが零れた。
| 目次 |