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二年生秋(9)

結局、球技大会は女子バスケの決勝敗退で幕を閉じた。皆悔しがっていたけれど、翌日になればアッサリしたものである。
ちなみに、球技大会中にもしかして…!と思った疑念については、かおり直々に否定の言葉を頂いた。


「木葉っていうか、バレー部の連中とかないから」


とピシャリと首を振って否定したかおりの様子から察するに、どうやら本当に木葉の事が好きとかそう言う訳では無いらしい。ということは、あの時のあれはマネージャーとして選手を心配してのものだったということか。
そんな私の勘違いはさておき。球技大会の後、赤葦くんと二人で出かける約束をしたことを改めてかおりと雪絵に伝えたところ、二人とも「いつの間に!?」「やったね!!」と目を輝かせて喜んでくれた。赤葦くんの連絡先もゲット出来たし、私的には充実した球技大会だったな、と昨日のことを思い出していると、「やけにご機嫌だな」と木葉に声をかけられる。


『あ、木葉、おはよう』

「おー、はよ。で?なんでそんなご機嫌なわけ?」

『え、あ、そ、それは………』

「……あー、うん。もういいわ。どうせ赤葦関係だろ?」

『なっ、なんで分かるの!?』

「お前が分かりやすいんだよ!」


そ、そんなに分かりやすいのか、私。両手で顔を覆って机に額をくっつける。赤葦くんのことを考えている時、一体どんな顔をしているのだろうか。


「………なに?デートの約束でも取り付けたわけ?」

『!?!?!?な、え、なんっ……え!?なんで!?!?』

「…………当てるなよ、俺………」


木葉の頬が引き攣る。どうやらかなりテキトーに言ったらしいけれど、見事に当てられてしまった。木葉って、実は超能力者とかじゃないよね????


『で、デートって言うか……赤葦くんが友達にあげるプレゼントを一緒に見に行くだけって言うか……』

「ふーん。やっぱデートじゃん」

『……私は、そうだったらいいなって思ってるよ』


顔を隠したまま呟いた言葉に「いいんじゃねえの、そう思ってて」と小さく笑った木葉の声が降ってくる。多分赤葦くんはそんなふうに欠片も思ってないだろうけれど、でも、私が一人で浮かれる分には勝手だろう。好きな人と二人で出掛けられるのってこんなに嬉しいことなのか。緩む口元を両手で隠しながら机から顔を上げると、ふと目に入った木葉の右手首。どうやら今日はもう湿布も貼っていないらしい。本当になんともなかったようだ。


『……あのさ木葉、』

「んー?なに?」

『昨日、庇ってくれてありがとね』

「っ、は?」

『あの時、木葉の手首の事ばっかり気にして、ちゃんとお礼言えてなかったから。だから……ありがとう』


ふんわり笑んでお礼を口にすれば、一瞬目を見開いた木葉がすぐ様顔を逸らして照れ臭そうにガシガシと後頭を掻き始める。「ん、」と頷く木葉の頬は僅かに赤くなっていて、随分と可愛らしい反応につい笑ってしまう。
「……わらってんじゃねえよ」とほっぺたを赤くしたまま、ジロっと睨んでくる木葉。「ごめんごめん、」と軽く謝っていると、予鈴のチャイムがなり慌てて皆が席について行く。先生が教室に入ってきたのを皮切りに、私と木葉も前へと向き直ったのだけれど、ちらりと盗み見た木葉の横顔は、やっぱりどこか可愛く見えてしまった。






            * * *






「お待たせしました、」

『う、ううん!全然!!私も今来たところだから!』


うわ、なんか今のやり取り、凄くカップルっぽい。
フワフワと浮つく心を落ち着かせようと小さく息を吐く。勝手に浮かれているのは私だけなのだろうけれど、でも、やっぱり浮かれるのは許して欲しい。なにせ好きな人と初めて二人で出掛けられるのだから。
赤葦くんとのお出掛けは、バレー部がオフ日の放課後の行くことになった。学校終わりに駅で待ち合わせてそのまま買い物。「放課後デートじゃん!」とトモちゃん達には散々からかわれたのはついさっきの事だ。
「行こっか!」と顔の熱を誤魔化すように歩き出せば、隣に並ぶように赤葦くんも歩き出す。これで手なんか繋げちゃえたら本当にカップルなのになあ、なんて更に欲張りになってしまう。

二人で話せるようになった。手作りのお菓子を食べて貰えた。球技大会の練習に付き合ってくれた。連絡先を教えて貰えた。そうして今は二人でお出かけだってしている。
恋をするって、多分、欲張りになるってことだ。
新しい赤葦くんを知る度、もっと他の顔が見たくなって、もっともっと赤葦くんとの想い出が欲しくなってしまう。
店内に並ぶ可愛らしいお菓子を選びながら、赤葦くんの横顔を何度も盗み見る。今はまだ、私の一方的な気持ちだけど、でも、いつかこの想いが、


赤葦くんに、届くといいな。


「あの、苗字先輩、」

『っ!え、あ、は、はいっ!?』

「大丈夫ですか??結構見て回りましたし、疲れたんじゃ……」

『そ、そんなことないよ!ちょっとボーッとしちゃって……変に心配掛けちゃってごめんね』

「いえ、それは全然」

『……何軒か見てるけど、めぼしい物はあったかな??』

「そう、ですね…………………正直、女性の“可愛い”って感覚があまりよく分からなくて……」

『あ、あはは……そっかあ……。……んー…私が見てた中だと、二軒目のチョコレートとさっきのお店のクッキーが可愛いかなって思ったんだけど……。どっちも結構有名なお店だし、味も美味しいと思うよ』

「なるほど、」

『あ!でも!…あくまで私の意見だし、最終的には赤葦くんが決めてね。貰う子も赤葦くんが選んだものの方が嬉しいと思うから』


慌てて付け足した言葉に赤葦くんの目がほんの少し大きくなる。「そうでしょうか?」と首を傾げる彼に、思わず眉を下げてしまう。


『そうだよ。だって私はその子の事何も知らないし。…でも、赤葦くんがその子のことを思い浮かべて買ったものなら、きっとその子は喜んでくれると思う。だって自分の事を考えて選んでくれたものだもん』


だからちょっぴり、顔も名前も知らないその子が羨ましかったりする。さすがにそれは口にしないけれど。
「……確かにそうですね」と柔らかく微笑んだ赤葦くん。まるで何かを思い出すように優しく細められた瞳は、誰かに何かを貰った時のことを思い出しているのかもしれない。そう言えば、赤葦くんの誕生日っていつだろう。


「……じゃあ、二軒目の店で見つけたチョコレートを買おうと思います。色々入っていて見た目も味も楽しめそうですし」

『うん!いいと思う!早速戻って買いに行こうか』


踵を返して二人で先程の店へ。目当ての商品を購入した赤葦くんを外で待っていると、「苗字先輩、」と買い物を終えた赤葦くんが店からでてきた。暇潰しに弄っていた携帯をポケットへ押し込み、「買えて良かったね」と笑いかけると、「はい」と頷いた赤葦くんが、右手に持っていた小さな紙袋を目の前に差し出してきた。


「これ、付き合って頂いたお礼です」

『……え、……え!?い、いやいや!お礼だなんて!そんな!!』

「俺一人じゃ、いつまでたっても選べなかったかもしれないし。貰ってください」


緩やかに弧を描いた口でそんな風に言われたら、断るなんて、出来なくなってしまう。「……あ、ありがとう……」と恐る恐る紙袋を受け取れば、「それは俺の台詞ですよ」と赤葦くんがクスリと小さな笑みを漏らす。


「買い物、手伝って頂いてありがとうございました」


最近、赤葦くんが笑顔をみせてくれる事が多くなったように思うのは、自惚れだろうか。
駅まで向かう足がいつもより少しだけ重たい。赤葦くんの役に立てたのは嬉しいのに、もう少し一緒にいたかったなんて、やっぱり私、欲張りになってるな。
下心ありきで申し出た“お手伝い”。そのせいか、貰った“お礼”にほんの少しの罪悪感。キーホルダーの時と言い、今回といい、赤葦くんに貰ってばかりのような。

私も、何かあげたいな。
私が選んだものを、赤葦くんに、貰って欲しいな。

隣を歩く赤葦くんを盗み見る。今度、かおりと雪絵に赤葦くんの誕生日を聞いてみよう。本人に聞くのもいいけど、でも、こっそりプレゼントを用意して、少しでも驚いてくれる赤葦くんを見てみたいかも。
貰った“お礼”を持つ手に力が入る。赤葦くんの誕生日。まだ、過ぎてないといいな。
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