涙雨【完】 | ナノ
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怪しい、なんて友達を疑う事がいいわけがない。けれどあの状況。松川に担がれている“死体”。疑わずにはいられないなんて言ったら、怒られるだろうか。

こっそりと四人の背中を追っていると、たどり着いたのは古ぼけた神社だった。夜中の神社は妙に不気味だ。息を潜めて気づかれないように追跡を続けると、ちょうど境内の中心で四人は足を止めた。


「開けんぞ」

「うん、お願い」


開けるって。何を?
階段の方に隠れて様子を伺っていると、岩泉の手が社の扉へと掛かる。え、と思った瞬間、岩泉の右手は神社の社の扉を開けてしまっていた。
あれ?社って勝手に開けていいものだっけ?岩泉にしては不自然な行動に眉を顰めながら様子を観察していると、「行こう」と告げた及川が社の中へ。続いて岩泉、花巻、松川と全員が入っていってしまう。
四人が入った事を確認したかのようにゆっくりと閉まる社の扉。慌てて駆け寄り木造りの扉を掴んだけれど、信じられない重さで閉じようとするそれにぐっと足に力を入れる。なにこれ、まるで鉄の扉だ。もうダメだと諦めて、手を離す前にせめて社の中だけでも確認しようとしたとき。


『え、』


身体に巻きついた黒い何か。それに引き付けられるように私の身体は、社の中へと入っていってしまった。





           *****





『っ…いった…頭打った…』


引き寄せられた衝撃で地面にぶつけた頭。コブになってしまったかもしれない。右手で擦りながら、転けるように倒れていた身体を起こすと、先ず目に入ったのはずいぶんと浮世離れした町並み。


『…は?』


おかしい。私は社の中へ入った筈なのになんだこれは。まるで時代劇のような町並みに目を丸くする。夢かと思い頬を抓れば、ジンジンとした痛みが抓った頬に走った。夢じゃないのか。
ポカンとしたまま固まっていると、目の前でピタリと止まった誰かの足。わざわざ人の前に立つなんて何事か。地面に座り込んだままの状態の為、顔をあげて相手を確認したその時、全身の血が冷え切ったように身体が震え出した。


「お嬢ちゃん、随分といい匂いがするねえ…?」


そう言って長い舌で唇を舐めずった男。
男、で、いいのだろうか。目の前に立つ相手の顔には、何故か、目が三つあるのだ。おまけに口から見える舌の長さが尋常ではない。仮装?特殊メイク?どちらにしてもリアルすぎる。
変に渇ききった喉のせいか、それとも目の前の異型な“モノ”に対する恐怖のせいか。震える唇を動かす事も、相手から視線を逸らすこともできない。


「…あんた…“人間”かい…?」


“モノ”の口が三日月のように歪む。
鋭く伸びた長い爪が目の前に迫ってくる。



その一文字が頭を過ぎったそのとき、座り込んでいた筈の身体が、浮遊感に襲われた。


「触るな」


抱き寄せられるように腰に回された腕。逞しいその腕はとても温かくて、いつの間にか目から涙が零れていた。ゆっくりと顔をあげ、その腕の持ち主を確認すると、そこにいたのは、


『…おい…かわ…?』

「…全く…なんで名前がここにいるの?」


そう言って困ったように眉を下げて笑う及川。コイツもこんな顔するのか。いつものおチャラけた様子からは想像出来ない。
思わず「ごめん」と謝ると、目元を優しく細めていた及川が、すっと表情を変えて目の前の“モノ”を捉えた。


「てめえあの屋敷の半端者だな…?」

「だったら何?」

「他人の獲物に手ぇ出すなんざいい度胸だなあ!小僧!!三流の分際で純血の俺らに逆らおうってか!?ああ!?」


屋敷?半端者?三流?純潔?
訳の分からない単語の多さに目を回していると、いつの間にか目の前に広い背中が三つ現れた。
「及川!!てめえ何一人で突っ走ってんだ!!」「うわ、まじで名前いんじゃん」「アレの血の匂いで気づかなかったんだな」岩泉に花巻、松川、そして及川。間違いなく先ほどまで私が尾行していたメンバーである。ただ一つ違うのは、松川が担いでいたはずのものが失くなっているという事だけ。
「マッキー、まっつん」と及川が二人を呼ぶと、それだけで何かを察したらしい二人は一つ頷き返すと、及川の腕の中にいた私の腕を掴んだ。


『え、あ、あの、』

「いいから、ほれ、走るぞ」

『え、でも及川と岩泉は、』

「アイツらは後から来るよ」


「行くぞ」という言葉に拒否権はなく、そのまま二人に引かれる腕。後ろ髪を引かれる思いで及川と岩泉の方を見れば、目があった岩泉がまるで大丈夫だと言うように大きく頷いた。

あれは一体何なのか。ここも何処なのか。

聞きたいことは山ほどあるのに、腕を引く力の強さに、何も聞く事は出来なかった。

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