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彼女の異変に気付いたのは俺たちが氷漬けの幻獣であるヴァリガルマンダの魔石を手に入れた直後だった。呆然と立ち尽くしたまま宙を見つめる様子に不安を感じて何度も声を掛けるが返事は返ってこない。
彼女の肩を揺することで、ようやくこっちを向いてくれた彼女にどうかしたのかと尋ねれば、先程の戦闘の影響だと答えた。

「……話が出来る幻獣と戦ったのは初めてだったから、動揺してしまって…」

ルノアの立場を考えれば最もだろうとその言葉に頷いた俺は、彼女の状況も踏まえた上で2人で先に戻ることを仲間に伝えた。それを了承したロックがそのままモグと共に炭鉱へ向かうのを見送ったあと、俺達は飛空艇へと向かって歩いていく。

「ルノア、大丈夫か?」

「…………平気」

話しかければ反応してくれるが、その返事はどこか心が抜けたように薄いものだった。それも仕方のない状況だと思ったが、深く考え込んでいる横顔を見ていると、それだけではない様な気がしてならなかった。

彼女の様子を確認するように時折短い言葉を掛けながら炭鉱を進んでいると、呼吸を整えるように息を吐き出したルノアがこっちを見ずに呟くような声で問いかけてきた。

「魔大戦を……知っている…?」

聞かれた言葉に頷いた俺は、“遥か昔に幻獣達と魔導士達の間におきた戦争”だと伝えた。以前、ラムウから聞いた話をルノアに伝えれば、彼女の表情が曇ったのが分かった。魔導士とは一体何なのかと詳しく聞いてくる彼女に事実を話すべきか迷ったが、それでも聞きたいと詰め寄るルノアに俺は酷だと思いながらもはっきりと伝えた。

「魔導士は幻獣から取り出した力を体内に注入された人間の事だ」

「……っ…」

「セリスは帝国の実験で眠らされたまま魔導の力を埋め込まれた。そしてケフカも同じ魔導士だ」

言葉を失い立ち止まったルノアは唇を強く噤んでいた。今の彼女に必要なのは同情ではなく知識だと思い、自分が知っている事を話していった。

「1000年前の話は今となっては言葉としての伝承しかない。大戦について記された書物が以前ドマにあったが遥か昔に紛失してしまったそうだ」

「・・・失われた…」

「だが、過去の技術を復活させた帝国は、その力を使って各地を侵略していった」

世界が崩壊する前の動向を知らない彼女に、俺達がガストラから氷漬けの幻獣を守る戦いをしていたことや、ティナの父親であるマディンやラムウとの出会いについても彼女に詳しく話せば、小さな声で“そうだったんだ…”と答えた。

どうして今になって魔大戦について彼女が気に掛けたのかを聞いてみれば、確認したかっただけだと話す。けれど、本当のところはどうなんだろうか。俯いたままの視線が気になり、他に何か知りたいことはあるかと声を掛ければ、寂しそうな表情を湛えてみせた。

「知りたいと思えば思うほど……分からなくなっていく…」

「何かに迷っているのか?」

「・・・・・・・・・・・」

黙ってしまうのはきっと俺の言葉が今の彼女の心情を当ててしまったからで、こんなにも悩むのは一体どんなことなのか知りたくて仕方がない気持ちになる。

だけど、全てを聞くことが良い事ではないだろう。
黙ってしまった相手がいつか話してくれるのを俺は待つしかなかった。

「もし話したいことがあったら、いつでも言ってくれ」

頷いた彼女の背中を押して、寒空の下を2人で歩いていく。
悩みを解決してあげる糸口を見い出してあげられたらと思う反面、何かに気付いて答えを出せるのは彼女自身でしかない。歯痒い立場にある自分は、今もまだこうして隣を歩いているだけしか出来ないのだと思うばかりだった。


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bkm

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