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サウスフィガロに到着した船がゆっくりと岸壁に停泊する。

降ろされた渡り桟橋を通り盗賊たちを率いて町へと入った後、フィガロ城に潜入するための準備が整うまで宿屋の2階で休息を取ることにした。

程なくすると予期していた通りに部屋のドアを控えめに叩く音が響いてくる。
ゆっくりと開ければルノアの姿が廊下に見えたのだが、それと同時に反対側にある酒場の扉が開くのに気付いた俺は、相手の腕を強く掴んで部屋の中へと引き摺りこんでいた。

扉を素早く閉めたあと、足音が消えるまでの間はその場所からじっと動かず廊下の状況を窺うように黙りこむ。
盗賊達ではないことにほっとしながら彼女の方を見たのだが、俺は知らず知らずのうちに相手の事を胸の中に抱き止めていた事に気付く。
彼女が何も喋らないのを利用してほんの少しの間このままの状態で居たのだが、ルノアと目が合ったことで自然とその状況は解消されていった。

「下手に廊下を逃げるよりこっちの方が怪しまれない」

本当に怪しまれたくなかったのはどっちなんだろうと考えながら、普通を装い彼女からの報告を受ける。
マッシュとセリスが船に乗り込み俺達の後を追っているのを知った後、ルノアには引き続き尾行をしてもらう事を頼んだ。彼女と別れてから部屋の中で1人考え込んでいると、宿屋に訪れたセリスとマッシュが俺の存在を確かめるように声を掛けてくる。

「エドガーなんでしょ?」

結局あしらう事しか出来ない俺は人違いだと言うのが限界で、盗賊が準備を終えた報告をキッカケに町を出て行った。

サウスフィガロを出てフールドを西へ向かって歩いていくと、盗賊達はどういうわけか洞窟の内部へと入っていく。以前、ルノアと一緒に洞窟を調べたときは出口が崩落しており何処にも出ることなど出来無かった筈だ。

俺達には分からない盗賊達だけが知る秘密の入り口はこの洞窟にあるんだと理解しながら、皆を引き連れ奥へと進んでいった。
湿度の高い内部を進み、フィガロ側の出口まで来るが、やはりこれ以上進むことは出来ない。
どうする?と声を掛ければ、盗賊の一人が鞄から何かを取り出すと、それを持ちながら水場に向かって声を掛け始めた。

「よ〜しよしよし亀ちゃんエサだよ」

声に釣られて池の奥から泳いできた亀が餌を探して辺りを動き回っている。
一体何の理由があってこんな事をしているのか最初は理解出来なかったが、盗賊達はそのカメを踏み台がわりに池の反対側にある薄暗い岩壁の隙間に向かってジャンプしたのだ。

洞窟自体が暗い上に陰影が濃く映っているせいか、そこに道があるなんて気付きもしなかった。ましてや目の前に池があるとなれば進もうと思う人間は居ないだろう。

想像していなかった道に驚きながら、先へと進む盗賊達の姿を追いかける。カメの甲羅を使って池を飛び越え、続く洞窟を抜けた先には目指していた場所が確かに存在していた。

ようやく目的の場所に辿り着き、逸る気持ちを押さえつけながら牢屋を抜けると床に倒れる従者の姿が目に飛び込んできた。呼吸が苦しいと訴える相手にもうすぐの辛抱だと声を掛け、俺は城の最奥にある機関室へとすぐに向かって行った。

階段をくだり目的の場所を目指すのだが、地中に留まっていた影響で城内の地下は多くのモンスターで溢れかえっていた。盗賊達に指示を飛ばしながら行く手を阻む敵を打ち倒し、ようやくの思いで機関室まで到達したのだが目の前の光景に言葉が詰まる。

「こいつが…絡まっていたせいか…」

巨大なエンジンを覆うように無数の触手が機械の隙間に入り込み動力の伝達を強引に押さえ込んでいる。これをどうにかするためにもまずは盗賊達を別の場所へ移動させる必要があると判断した俺は、自分が敵を食い止めている間に奥の部屋に行けと指示を飛ばした。

あとは絡みつく触手を排除するだけだと敵に目をむければ、後方から俺を呼ぶ声がする。
盗賊と入れ替わるように姿を現した二人に気づき、期待を込めながら言葉を放った。

「何ボケッとつったってる!!セリス!マッシュ!それとルノア!手伝ってくれよ!」

最後に登場した彼女は被っていたフードを外しながらいつものように俺の隣に立つと、植物を枯らすのには火と毒が効果的だと話してくれる。そんな相手に機械の弱点でもある雷だけは撃たないように注意喚起をしておくことを忘れなかった。

「…確かに…。そのような説明が本に書いてあったような気がする」
「納得するのは後で頼む。さあやるぞ、ルノア」
「分かっている」

言葉と同時に武器を手に取りマッシュ達と挟むようにして敵と対峙する。蠢く敵に攻撃を仕掛けていると戦いの途中で何かに気付いたルノアが声を掛けてきた。

「エドガー、手前右の触手には炎が効かないみたい」
「なる程、それぞれ属性が異なるのか」
「けれど、毒属性は全ての触手に効果があったから、きっとあの機械なら」
「それじゃあ遠慮なく使わせてもらう。いいか皆!近寄るなよ」

防護マスクで自らの顔を覆い手製の機械であるバイオブラストを照射する。
緑の液体が植物である敵にじわじわと蔓延して黄色い触手を蝕ばんでいくのが分かった。
ルノアはその直後に反対側に居たセリスに声を掛けながら標的を指し示すように巨大な氷塊を作り出し攻撃を仕掛けていく。

統率の取れた動きによって効率良く進んでいく戦闘。
そのお陰で見る間に敵の戦力が削ぎ落とされていった。
まるで互いの次の動きが見えるような戦いに心地良さを感じるほど、俺とルノアの行動が噛み合っているのを実感する。

このままの流れで一気に決着をつけようと攻撃を仕掛けるのだが、突然一本の触手が異様な動きを見せはじめる。誰かを狙っている事に気付き、すぐさま仕留めようとしたのだが俺が動くよりも先に敵の攻撃が襲い掛かってくる。

その標的が自分だと分かり反撃を試みたが、あまりの早さに照準を定めることが出来なかった。目の前まで延びてきた鞭のような蔓に掴まると覚悟した瞬間、彼女がまるで俺を庇うようにして横から突き飛ばしてきたのだ。

「ルノアッ!!!!!」

触手に体を締め上げられ苦しそうにする彼女の名前を呼ぶ俺の声が機関室に響き渡る。
必死にもがく姿を見て、一刻も早く助けなければという焦りを感じていると、反対側に居たマッシュが強力な一撃を触手に叩き込み、捕らえていた敵を見事に打ち倒してくれた。

彼女を救ってくれた弟に感謝しながら隣に戻ってきたルノアの様子を確認すると咳き込んでいる程度で大きな外傷は無いようだ。念のため回復魔法で傷を癒したあと、残り一本となった触手に全員で攻撃を開始していく。
俺が攻撃を仕掛ければ追い討ちのように強力な魔法が降り注ぎ、セリスとマッシュの攻撃も絡み合ってエンジンを蝕んでいた触手は苦しむように蠢くとバラバラの破片になって跡形も無く消えていった。

障害となっていた敵を打ち倒し、動力源であるエンジンを無事に開放することが出来た。
安全を確認したあとにセリスとマッシュに今まで自分の素性を偽っていた理由を話していると、奥の倉庫から盗賊達の声が聞こえたのに気付き全員に隠れるように指示をする。

部屋から出てきた盗賊は触手と共に消えてしまった俺を勝手に死んでしまったと推測したようだ。
悲しむような素振りを一瞬見せながら、持ち出した金品を抱えて機関室を去っていくのを黙って見送ると、セリスにこれでいいの?と確認された俺は本当の悪はケフカだと伝えた。

マッシュはといえば俺の顔を見るなり快活な表情で、一緒に戦おうと意気込みを口にしてみせる。俺は弟の隣にユカがいるかもしれないと想像していたが、どうやら再会は出来ていないようだ。だが、これから城を動かし色々な場所に行ける様になればきっとマッシュもユカと再会できる日が来るだろう。

2人から4人に増えたのを機会にルノアにも今後は皆と共に行動しようと伝えるために傍に呼び寄せ声を掛ける。
セリスが戦闘での助言にお礼を伝えていると、ルノアに対して懐疑的に接していたマッシュが戸惑いをみせながら彼女に歩み寄る態度を示してくれた。

「今まで…その、悪かった。思い違いしてたんだ、俺」
「・・・・・・・・・」
「これからよろしくな!ルノア」

ルノアに手を差し出し和解の握手を求めるマッシュだったが、それに反して彼女は何もしようとしなかった。もしかすると以前の出来事を払拭出来ずにいるのかもしれないと思ったのだが、ルノアは突然後ろに下がってくると俺にコソコソと耳打ちをしてきた。

「彼は何をしようとしているんだろう?」

相手の行動が分からなくて動かなかったんだと理解した俺はその意味合いと手を握り合えばいい事を伝える。納得したルノアは差し出されたマッシュの大きな手を握りしめ、今まで仲違いしていた2人はようやく和解してくれたのだった。

穏やかな気持ちで2人の握手を眺めていたのだが、いつになっても互いの手を離さずに見詰め合っている事に気付く。
これは一体どういう事なんだと考え込みながら少しだけ待ってみるが、一向に離れる気配が無かったので俺は大きめの咳払いで時間切れを言い渡したのだった。


その後、エンジンの修理をする為にマントを脱いて隣にいたルノアにそれを手渡した。
代わりに部品や機材を受け取りながら細かな部分までエンジンの確認をしていると、彼女は補助をしながら色々な事を聞いてくるから俺は手を動かしながら質問に答えていった。

機械という特殊分野を話に出すと興味の無い相手ならばすぐにその会話は終わってしまう。特に女性であれば尚更なのだが、彼女はそれを教えて欲しいと言ってくるような人物だった。
自分が得意とすることや好きなことに興味を持ってくれることもそうだが、共通の話題として話せるというのが俺にとっては嬉しい事だった。

きっと教えてあげるという行為が俺の性質としてあるからこそ成り立つのかもしれないが、彼女の記憶に記されていく物事に自分が関与しているんだという特異な考え方も出来るかもしれない。

質問を返しながらそんな事を思っていると、見ているだけだったルノアが自分も手伝いたいと申し出てくる。ならば機械に髪の毛が絡まらないように纏めた方がいいと伝えれば、彼女は鞄の中から一本のリボンを取り出し結び始めたのだった。

それは以前、有事の際に伝言用に使って欲しいと渡した俺のリボンで、瞬く間に結び終わったルノアはくるりと後ろを向いてみせた。

「これでどう?」

「ああ、大丈夫だ」

確認を終えるとすぐさま機械に残っている蔦の残骸を片付け始める彼女。
その様子を見守りながら自分も作業を再会したのだが、ふとした瞬間ある事に気付いてしまう。

「…お揃い……………じゃないのか?」

俺がつけているリボンと、彼女が結んでいるリボンは元々俺が持っていたもので、両方とも同じものを使っていた。つまりそれを渡したのだから今現在俺が使っているリボンと全く同じものを彼女は身につけているという事に他ならない。
縛り方も同じで色も同じ。結んでいる高さまで殆ど一緒だった。

「――――――・・・・・」

表現しづらい複雑な気持ちが込み上げてきて、俺の作業スピードは極端に遅くなっていたのだった。


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