EP.76(1)
ティナ、ロック、兄貴、そして俺を含む4人は幻獣と手を組むため、封魔壁と呼ばれる場所に向かうことになった。出発間際、飛空挺から見送りに出てきたカイエンやガウ、セッツァーにモグ、そしてユカに手を振った。

その時、ユカが手を振りながら何かを言った気がしたんだ。
聞こえなかったけどいつもの笑顔を見せるから、俺はそのまま背中を向けて歩き出した。

俺に向かってユカが言った言葉。
それが何かを知ったのは、戻ってきた後の事…――。

俺はユカの変化に気付く事はなく、兄貴達と一緒に帝国の監視所へと進んだ。警戒しながら踏み込んだ場所には、何故か誰一人として居なかった。怪しさを感じながらその場所を通り抜け、洞窟内部の仕掛けを解除しながら強力なモンスターとの戦いを繰り返していった。
そしてようやく封魔壁の前まで辿り着くと、ティナは巨大な扉の前で幻獣達に対して呼びかけた。

するとその直後、背後から突然現れたのは兵士を引き連れたケフカだった。

気味悪い高笑いをしながら、俺たちにアイツは言った。ティナを帝国に刃向かうものに渡し、泳がせれば封魔壁を必ず開くと。
俺たちは帝国の手の内で踊らされていたに過ぎないんだって、嘲笑ってみせた。

もしそれが本当だとしても、ケフカに邪魔をされるわけにはいかない。戦うことで帝国の行く手を阻み続けていると、俺たちの後ろで巨大な扉がゆっくりと開きはじめていく。その内側から物凄い数の幻獣たちが飛び出してきて、巨大なエネルギーの流れに耐え切れずケフカ共々自分達の体が吹き飛ばされていった。

開いた筈の幻獣界への扉は轟音と共に閉まり始める。そして振動で崩れてきた岩によってその入り口は埋まるようにして閉ざされてしまったんだ。
倒れていたティナを起こした後、どうすることも出来ない事態に一度飛空挺まで戻ることにした俺達。監視所の入り口まで戻ってくると、カイエンが心配した様子で帰りを待っていた。

「一体何が起こったでござる?幻獣達が群れをなして飛んで行き、その後帝国の人間も怯えるように逃げていったでござる」
「幻獣はどっちの方向へ?」
「帝国首都の方へ向かったようでござる」
「ベクタか……」

兄貴が先頭に立ち、すぐさま飛空挺を浮上させてベクタに向かった。
すると、船内でカイエンが俺を見ながら何か言おうとしている事に気付いて、こっちから話しかけたんだ。重い表情をしているカイエンが喋ろうとした瞬間、いきなり物凄い衝撃が飛空挺を襲った。

状況を確かめようと慌てて甲板に出て行くと、そこには誰かに呼びかけ続けるティナの姿があった。

「だめ…、行ってはだめ…行かないで、お願い!」

飛空挺を襲う揺れは、収まるどころかどんどんでかくなっていって、舵を握っていた兄貴が鋭い声で叫んでいた。

「セッツァー!!!舵がきかない!!!!」

轟々と響く音と共に立ちこめる黒い煙。
飛空挺の速度と高度が見る間に下がって、山肌を削るように木々を押し倒していく。振動は益々大きくなって、船体を陸に擦りつけることでようやく止まることが出来た状態だった。

甲板にいた皆に視線を向ければ、全員無事なのが分かった。ほっと一息ついたけど、一向に姿を見せないユカの事が気になって、俺は船内に戻って彼女を探し回ることにした。

だけど。

呼びかけても、一度だって返事が返ってこない。
どんなに名前を呼んでも、姿を見せてくれなかった。

まさか、と嫌な気持ちが広がっていくから、探せる場所全部探したのに、ユカの姿が見つかる事はなかった。

「・・・そんな…」

起こった事が理解出来なくて、焦りばかりを抱える俺の目の前をセッツァーが通りかかった。相手の進路に立ち塞がり、ユカを知らないかと聞けば淡々とした答えが返ってくる。

「知らないな」
「けどよ、同じ飛空挺に居たんだから分かるだろ?」
「さぁな。知らないものは知らない」
「どういう事だよ、知らないって」
「何度も同じ事を言うのは趣味じゃないんだがな」

俺に対して呆れた顔をするセッツァーの態度に、不安と焦りが入り混じり苛立ちに変わろうとしていた。それでも気持ちを押さえて話を続けたけど、相手は知らないとしか言わなかった。

「そこまでずっと見てなきゃ駄目なのか?あいつは子供じゃないだろ」
「そんなの知ってる」
「じゃあ、いいだろそれで」
「居ないことが問題なんだ!」
「全て把握してなきゃいけないってか?こっちは誰か1人だけを気にしてるほど暇じゃないんだ」
「何だよその言い方…ッ!」

立ち去ろうとする相手の腕を掴んでいたのは無意識で、力が篭っていたのも分からない程だった。セッツァーはそんな俺の腕を乱暴に振り払い、じっと睨むようにこっちを見た。

「だったら、お前がここに居れば良かったんじゃないのか?」
「けど、俺は!」
「お前は行くことを選んだ。それだけの事だ」
「だとしても突然居なくなるなんて思うかよ!!」
「自分が選んだ結果だろ。ユカが居ないこともあいつが決めた事だ。ほっとけよ」
「セッツァー…!ッ…てめぇ!!」

相手の胸ぐらを掴む俺の手を止めたのは、甲板から戻ってきた兄貴だった。仲裁が入ったものの、それでも俺とセッツァーは互いに睨み合い、視線を逸らさずにいた。

すると、向こうが俺の目をまっすぐに見ながら低い声で問いただしてくる。

「なぁ…お前って、一体あいつの何なんだ??」

言われた瞬間、手の力が抜けるのが分かった。
投げつけられた言葉を返せるだけのものが、俺には無かったからだ。

「やっぱな。だろうと思ったぜ」
「――――…ッ」
「いくら他人が語ろうと、本人が気付かなきゃ意味が無い」

悔しさで握る拳が自分の手の平に食い込んでるのに、その痛みにすら気付かなくて。俺はセッツァーの服を離すと、その場から足早に離れていった----。


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