EP.45
朦朧とする意識の中で、私の名前を誰かが呼んでいる。視界が明瞭になるにつれて、ようやくそれがマッシュだと気づく。

「ユカ!大丈夫か!?」
「マッシュ・・・・・皆は?」
「心配すんな、無事だ」

ゆっくりと起きあがりマッシュの示す先に視線を向ければ、横たわる2人の姿が見える。重い体を引き摺るようにして近寄り、声を掛けながらカイエンさんをゆすり起こした。

「カイエンさん、カイエンさん!大丈夫ですか?」
「ユカ殿…拙者は無事でござる」
「良かった」

ガウのことはマッシュが起こしてくれたし、大変だったけど何とか4人揃ってニケアに辿り着けて一安心というところだ。

無事に到着出来た喜びと安堵。それと同時に、極度の疲労を体に感じていた。
今夜はゆっくり休もうと、皆で宿屋を目指して町へと向かっていく。すると港を出てすぐに目の当たりにした光景に自分とガウは大興奮していた。
たくさんの荷物があちこちに並べられ、連なるように露天が並んでいる。多くの物資が溢れてて、活気のある声が響き渡るとても元気な町だったからだ。

「港町ニケアは貿易都市だからな」
「そっか、だからこんなに賑やかなんだ…」

体の動きが鈍い事も忘れ、ワクワクした気持ちで雑踏の中をどんどん進んでいく。物珍しさから見るもの全てに気を取られ、不注意で通行人とぶつかってしまった。肩が当たっただけなのに、フラついた体が意識とは裏腹に力無く傾いていった。

「…っと!あぶね。大丈夫か?ユカ」

人混みに飲み込まれそうになった瞬間、腕を掴んで助けてくれたのはマッシュだった。

「ご、ごめん」
「気にすんなって。こんな所で転んだらぺしゃんこになっちまうぞ??」

楽しそうに笑うマッシュにつられて自分も笑ったつもりだったけど、彼は不思議そうに私を見つめていた。

「ユカ…どうかしたのか?」
「……え、何??」
「いや、なんかいつもと違う気がした」
「ううん。そんな事ないと思うけど…」
「ならいいんだ。それより腹減ったな!いっぱい食べようぜ」
「そうだね。ガウにも約束したし」
「ピカピカのお礼か?」
「うん。ここまでこれたのはガウのお陰。それと、マッシュとカイエンさんのお陰だから」

そんな事を話すと、彼は私に「一番最初にガウに会うって言ったのはユカだろ?だからお前のお陰だな!」って笑顔で答える。だから驚くしかなくて、そんな風に言って貰えて、何だか胸の奥がむず痒く感じる。
まるで褒めてもらえたようで、役に立てたようで、凄く嬉しくて仕方がなくて……。

「ッ…あのね、マッシュ」
「ん?」
「ありがとう!全部マッシュのお陰だよ」
「………?!」
「さ、皆でご飯食べよう。ガウー!カイエンさーん!!そうだ、着替えもしないと!」

手を振って2人を呼び寄せ、向かう宿屋。
そして……あからさまに騒ぐことで濁した今。

さっきの自分は一体なんだろう…。
滲むように、溢れるように言葉が出てきて、伝えたくて仕方がなかったありがとうの気持ち。マッシュがさっき言ってたように、今の自分はいつもと少し違うのかもしれない・・・。


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