ユカからの頼みごとを叶えるために、そして目的地を目指すために俺達は戦いを繰り返しながら獣々原を進んでいく。
モンスターとの戦闘が終わり、滴り落ちてくる汗を腕で拭う。水を煽りながら雄大な平地に目を向ければ、その広大さに故郷の砂漠を思い出す程だ。
目印になる山がなければ今頃きっと迷子になってただろうなと思える程の大地。
俺とユカとカイエンは、3人で三日月山を目指しつつ、目的の少年を探すため歩き続けていた。
だけど、ありとあらゆるモンスターが集まる事も災いして、なかなか会うことが出来ずにいた。
「思った以上に見つからないな」
「何せこの広大な土地。1人の少年と遭遇するのは至難でござる」
「あの…2人とも。ごめ…」
申し訳無さそうな顔をして余計な事を口にしようとする彼女。それに気付いた俺は無理やり言葉をかぶせることで遮ってやった。
「だーから言ったろ!それはナシだって」
「…うぅ…」
「拙者もマッシュ殿も同意した身。ユカ殿は気にする必要はないでござる」
「そうそう。それにこれも修行だと思えば問題ないしな」
今までの修行に比べれば朝飯前。
それでも、気付けば太陽は真上。
休憩を兼ねて食事をしようとするのだが、この平地では水辺も近くに見当たらない。
今後の事も考え、水はなるべく使わず取っておくことにしよう。
そう思って水筒をしまっていると、隣にいたユカが鞄をガサゴソと漁り何かを取り出す。
「ほしにくならあるよ」
「いいのか食べて?」
「うん。たくさん買ったから問題ないし」
「どれくらいだ?」
「え・・・?」
「いや、どれくらい買ったんだよ」
「いや?え?えっへへ!まぁまぁ!!備えあれば憂い無しだから」
笑って誤魔化すところを見ると相当買い込んだに違いない。
「……アニキのやつ。ユカにめちゃくちゃ金渡したな…」
なかなかの兄の贔屓に、本当に善意だけなのかがちょっとだけ怪しくなってくる。疑問を抱きながら貰ったほしにくを口に咥えて、三日月山の場所を確認しようとした時だった。
「ッぁあ!!!」
突然、背後から聞こえてきた叫び声。驚いて振り返ると、事もあろうに彼女が何者かに押し倒されて地面に仰向けの状態にさせられていた。
「ユカッッ!!!!」
驚きと苛立ちと焦りを同時に感じながら彼女のところへ駆け寄り、上に乗っかっている相手を剥ぎ取ろうと力を込めた。すると急にユカが大声をあげる。
「ようやく会えたっ!!」
今の俺にとってそんな事どうでもよくて、この状況を何とかしたくてたまらなかった。なのに緑色の髪の毛をしたヤローはユカに益々近づいていく。
「こ…いつ、離れろッツ!!!!」
どうにかして引っぺがそうとしていたら、そいつはユカからほしにくを奪い、大きく口をあけてムグムグと食べ始めた。
そんなヤツ相手にユカは、お腹空いてるんだよね、なんて言いながら、ほしにくのいっぱい入った袋を差し出す。
言うが早いか緑色の髪の毛をしたヤツはそれを掠めとるようにして持っていくと、少し離れた所でバクバクと勢いよく食べ始める。
そして、沢山あった筈のほしにくはあっという間に胃袋の中へと消えていった。
「がうーーー!!」
「「「!?」」」
食べて満足したのかと思いきや、今度はいきなり叫んできやがった。驚いて身構えたけど、襲ってくるわけでもなく俺達の方にジリジリと詰め寄ってきて、ジィィーと穴が開くほど見てきた。
「な、なんだよ」
「妙なやつで、ござる!!」
「どうしたのかな?」
こっちも負けじと相手を見てると、カイエンが何を思ったのかいきなり自分達の自己紹介を始める。
「拙者は、カイエン。で、こっちがマッシュ。そして、こちらはユカ」
「マッシュにカイエンにユカか」
ちゃんとした会話が出来るようだ、と安心したのも束の間。いきなりソイツは飛びかかるようにしてユカに急に近寄りやがった。
「もっとくいものくれ」
「あのね、それがね…」
言い方も態度も気に入らなくて相手の首根っこを掴んで遠くに運び、それからハッキリと事実も伝えてやった。
「もう、ねえよ」
こっちが上から目線で喋ると、反発するかのように対抗してくる相手。
「じゃあ、さがしてこい」
睨みを効かせた物言いが癪にさわり、あっという間に臨戦態勢。俺とコイツの間に火花が散りはじめ、言い争いに発展していった。
「お前、ちいさいな」
「おまえ、こわいんだろ?」
「やるのか?」
「ついてこれればな!」
額がくっつくんじゃないかと思う程に近づいて、お互いが挑発しあう。
そしていきなり始まったのは、飛び跳ねグルグルと回りあう、跳躍力と持久力と瞬発力の争いだった。
「ぜぇぜぇ!なかなか、やるじゃねえか!」
「はぁはぁ!おまえすごい!」
一瞬止まって、意外と健闘する相手に言葉を掛けていた。
そしてまたぐるぐると飛び跳ね競い合っていたのだが、気付けば自分1人たけになっていた。
「ひっかかった!」
「うるせぇ!!」
こいつときらたゲラゲラと腹を抱え笑ってやがるし、ついでにユカまで声を出して笑ってるし。捕まえて仕返ししてやろうと思っていたら、カイエンが穏やかな顔をしながら宥めに入ってくる。
「まぁ、まぁ、それはともかく、君は何者でござる?」
「ござる?」
質問に答えもしないで、カイエンの一風変わった語尾に食いつき連呼し始める。すると、後ろを向いて黙ってしまったカイエンを気にするように、周りをウロウロしだす。
「おこった?カイエン!おこったのか?」
何も知らないそいつを捕まえて、離れた場所まで連れていくと今まであった事を教えてやった。すると、話しを理解したのか、カイエンの元へと走っていく。
「そうだったのか。ガウわるいやつ。ガウわるいやつ、おいらわるいやつ」
そうやって何度も謝り続けていると、カイエンはにこりとしながらガウに対して話しかけていた。
「なに、いつまでもくよくよしてはいられぬ。それに、ガウ。おぬしとは、なにかうまが合いそうでござる!一緒に来るか?」
まさかの勧誘に最初は驚いたけど、このまま広い平原に子供一人にさせておくのはカイエンとしては心配になったのかもしれない。
許してやるかと思った矢先、そいつがいきなりユカの手を掴み何処かへ連れてこうとする。
「あ?え?何??」
「プレゼントする!」
「プレゼント??」
「ガウ、カイエンとユカとマッシュにプレゼントする。ほしにくのおれいする」
「ううん、いいんだよ。私はあなたに助けて貰ったから。ほしにくはそのお礼」
「けどいっぱいもらった!だからプレゼントする!!」
本当に何処かに連れてこうとするなら、ふっ飛ばしてやろうとも思ったが、何やら事情は違うようだ。
「どうせ、くだらないものなんじゃないのか………?」
そう聞くと相手は張り合うようにプレゼントの説明をしだした。
「ガウの宝だ!ピカピカピカピカの宝だ!」
その説明を聞いて少し興味が湧き、ちょっとだけ距離を縮めようと質問をする俺。
けど、こっちが歩み寄ったというのにそれを無視してユカとカイエンに話掛けるガウ。
「ござるはピカピカすきか?ユカはピカピカすきか?」
2人の顔を覗き込むようにして尋ねたガウは、今度はカイエンを移動させはじめた。
「ござるは、あっちだ!!」
相手の行動を見ながら宝の話を聞いて思い出したのは1人の男の事。きっとこの話をロックが聞いたら、うらやましがるだろうなって思った。
独り言の様にぼそっと呟いた瞬間、いきなり離れていたガウが俺のところに急接近してきた。
「ロックって誰だ?わるいやつか。おいらの宝とろうとしてるのか?」
ぐいぐいと問い詰め始めるから、まるで俺が悪い奴のような空気になりかける。
だから、急いでその人物の説明を始めたんだけど俺を無視してグルグルと回ってばかりいた。
「人の話を聞けよ!!」
「ねぇ、マッシュ。ガウが何か言いたそうだよ?」
「……しょうがないなぁ……で、何なんだよー?」
ユカに宥められて仕方なく待ってると、またもやユカを連れて歩き出すガウ。
「ここ、ここ!ここにピカピカある」
何やらユカとガウが居る所にピカピカがあって。
「マッシュたっているところ、そこ、モブリズ!」
らしくて。
「カイエンたっているところ、お前たち流れ着いてたところ」
らしい。
「おいら、いるあたり三日月。三日月山、三日月山、ピカピカある」
ガウはどうやら俺達を使って場所を示しているみたいだ。
「とにかく、ガウの言う、その三日月山に行ってみるとするでござる」
「そうですね。目的地も三日月山なら問題ないですし」
「なぁ、ユカ。ピカピカすきか?」
「嫌いじゃないけどガウの宝物なんだよね?」
「ユカたくさん、ほしにくくれた!だからプレゼント」
「じゃあ、それを貰ったら、また私がガウにプレゼントすればいいね」
「ほんとか!?じゃあほしにく!ほしにくくれ!」
「ほしにく以外にも美味しいのあるから、それ一緒に食べよう?」
「ほんとか!!ユカといっしょに食う!!ござるもたべるぞ!」
ワイワイと楽しそうに話しながら進んでいく3人と、残される俺。
「ふう・・・・・・。やれやれ、やっかいなやつが仲間になったよな……」
とはいえ仲間が増えたことは心強くもあるのも確か・・・だけど。
「ござる!早く来い!おいてくぞ!」
後ろ歩きしながらこっちに来るところからして、完全に俺はあいつになめられてるだろ。
「ござるじゃないって言ってるだろ!ござるじゃないって・・・っおい!」
言ってるそばから俺の話など聞かず、本当にそのまま置いてくガウ。
「あのヤロー…」
本当にあいつは俺の味方なのか??
正直ちょっと怪しい気がするのは俺だけか??
この先間違いなく色々な事が起きる…それだけは確実だと思いながら、仲良く歩く3人の後を1人遅れて歩いて行った---。