EP.37
森を抜けてテントを張り、今日はここで一夜を過ごす。
プラットホームに1人佇むあの背中を時折思い出して、溜息が溢れそうになった。

焚き火に体を向けているのに、見ている方向は魔列車のあった森。
来てくれることを願いながら静かな時間を送っていた。

「…あの、シャドウさん。それからマッシュ。今日は私がずっと火の番をしてもいい?」
「そんなことしたら疲れるだろ」
「ううん、大丈夫。二人は戦って疲れてるけど、私は何もしてないから。せめて待っていたいんだ」
「けどよ」
「それに、きっと寝れないと思うから…」

そう話すとマッシュは少し困ったように俯いた。
シャドウさんの方を見れば黙って立ち上がり、テントの方へと歩き出していく。

「マッシュも寝て。お願い」

こんな頼み方は一人にして欲しいと頼んでいるようなものだろうか。
だけど、疲れをとって欲しいのも、寝れないのも本当だったから。

「本当に大丈夫か?」
「うん。平気」
「何かあったらすぐ起こせよ。いいな?」
「分かったよ。おやすみなさい、ゆっくり休んでね」

2人が居なくなり余計に静かになる夜。
三角座りをしながら足を抱え、焚き火を見つめていた。
すると、足音を立てずにやってきたのはインターセプターだった。

いつもは近寄っても来ないのに、どうしてなのか自分の隣まで寄ってくると体を丸めて座りこんでしまった。

きっと私が頼りないからシャドウさんが命令したのだろう。

「優しいね……。シャドウさんもキミも…」

その優しさに甘えてインタセプターにそっと触れる。
ピクリと耳を動かしたものの吼えはせず、今日だけは特別に許してくれたようだ。

「ありがと…」

手の平に感じる温かさ。
その温もりに触れていると心が落ち着いていくのが分かった。

昨日も今日も色々な事が起きた。
帝国軍の陣地を越え、ドマで起きた惨劇を知り、怒りに震えるカイエンさんと出会った。
次は森の中で発見した魔列車に乗り、そして魔列車によって送り出される数多くの犠牲者が旅立つのを目にした。

その中にはカイエンさんの家族がいて、ケフカの流した毒によって沢山の人が死んだんだ。

もしもあの時止められたなら…そう考えてしまう事をやっぱり止められない。
力がない自分が恨めしいと、こんなにも強く感じてしまう。

目に溜まり始める雫を取り去ろうと、抱えた膝に顔を埋める。
鼻を啜って息を吐き出していると、隣に居たインターセプターが動き出す。

それにつられて顔を上げれば、そこにはシャドウさんの姿があった。

「どうか…したんですか?」
「・・・・・・いや」
「もしかして…寝れませんか?」
「睡眠などそれほど必要ない」

そう答えてくれたシャドウさんだったけど、それが本当かどうかは分からない。
ただの誤魔化しかもしれないし、私の信用の無さかも知れない。

お互い静かに火の側に身を置いて、沈黙を保っていた。
元々口数の少ないシャドウさんだったから、この沈黙は苦痛ではなかった。黙っていることを良しとしてくれる空気が逆に気兼ねなく思えるからだろう。

揺らめく炎の向こう側に、黒を纏うシャドウさんが見える。
この人はどうして顔を隠しているのだろうか。
何で一緒に来てくれたんだろうか。

小さな疑問が湧いては消えていく中で、1つだけ言いたい事が見つかった。

「実はさっき…インタセプターが初めて触らせてくれたんです」

何も喋ってはくれないが、別にそれでも良かったから独り言の様に話を続けた。

「いつもは近寄ってもきてくれないのに。本当は優しいんですね。シャドウさんもインタセプターも」
「さあな…勘違いは勝手にしてくれ」
「そうですね。優しさの形は人それぞれですもんね」

それをバルガスさんと出会った時に知ったような気がしたから、シャドウさんの優しさもまた1つの形だと思える。
出会う人の優しさを受け取っているからこそ、今の自分は無事で居られるんだ。
だからこそ気になる。一人なのはどうしてなのかと。

「シャドウさんは…どんな理由で旅をしているんですか?」
「・・・・・・・・・」
「強くなる為ですか?」

今の自分と現実を比喩して、それになれない者が憧れを抱くように聞いていた。

「人がそれを望む時…既に全てが手遅れだ」
「―――……だけど…っ」
「ならばお前はどうだ?最早終わった事じゃないのか?」

後悔して悔やんでる時点でもう遅い。
知ってはいるけど、それでも…。

「強さというのがたった一つなら、誰も迷ったりはしない」
「・・・・どういう…」

シャドウさんには理解出来て、自分には理解できない答えだった。

「焚き木を取ってくる」

それだけを残して彼は立ち上がり、夜の闇へと消えていった。

遅く流れる時間の中で、言われた言葉をずっと考えてみたが、やっぱり分からないままだった。その間にいつしか空は白み始め、早起きが習慣のマッシュがテントから出てきたからおはようと挨拶を交わした。朝食を済ませた後、片付けをしているとマッシュは言葉短く静かな声で私に話す。

「あと少し待とう。もしそれで来なかったら…」

小さく頷いて、それからずっと森を見続けていた。
ある程度の時間が経過すると、現れない事に見切りをつけたのか、シャドウさんが1人歩き出す。
そしてマッシュが私に話しかけようとした時、森の奥から現れた人影は間違いなくあの人だった。

「ッ------カイエンさんッ!!!!」

離れた距離を一気に走り、息を切らせながら言葉を掛ける。

「…来てくれたんですね」
「ユカ殿…マッシュ殿…待たせてしまって申し訳ない。もう大丈夫でござる」

そう話すカイエンさんはしっかりと前を向いていた。
歩き出したその背中に昨日見た悲しみは見えない。

だけどきっとその奥には隠すように閉まった思いがきっとあるんだろう。
皆それぞれ気持ちを抱えて歩いている。
自分のちっぽけな不安など、今の出来事に比べれば取るに足らない。
だからこそ、頑張って歩き続けなくちゃいけない。


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