EP.36
「メシだ、メシだ!山程持ってこ〜い!」

この台詞を口にしている人物は、食堂車の真ん中にあるテーブルに1人陣取っていた。単にふざけてるだけかと思ったら、お化けがウェイターのように本当に本物の食事を運んできた。

「え!?どうして??」
「こ、こんなもの食べて、大丈夫なのでござろうか?」

テーブルの横に立っていた私とカイエンさんは、あからさまに疑っていたけど、マッシュは全然気にもしてないようだ。

「心配なのか?ま、いいじゃないの。腹が減ってはイクサはできんよ」

何というメンタリティだろう。
いつも思うけど本当に関心してしまう。

「うーむ…拙者、どうもこういう話は苦手でござるよ。全く…」
「カイエンさんの反応は普通だと思います。私も勘ぐってしまいますから…」

言ってる傍からマッシュは美味しそうにもぐもぐもぐもぐと食事を食べ続ける。
だけど、こんなに普通に食べているならいけそうな気もする。

「あ、あのさ。本当に大丈夫??」
「当たり前だろ。俺が食べてんだから」
「そうなんだけど…」
「ほら食べてみろ。美味いぞ」

そう言って差し出された食事。
受け取ろうとしたのだがフォークだけが自分の口に向かってくるではないか。

「ほら、あーんってしろ」
「あ!?あーん!?!?!」
「ほら早くしろって!落ちるから!」
「あ、え……あ…あ」

ぎこちなく口を開ければ放り込まれるようにして入ってきた食事。
量が多くて唇の横についてしまったソースを行儀悪く舌で舐め取った。

「ほうひいね」

まったくもって喋れていない感想。
だけど、マッシュには通じたようで“だろ?”と言ってくれた。

「さて!たらふく食ったし、行くとするか!」

結局自分もその後食事をしてしまった。
カイエンさんに普通の感覚と言っておきながら自分は結局マッシュ側のようだ。

食堂車を抜け次の列車に行くと、遂に目的の先頭車両に到着する。

ここに来る途中、宝箱を狙った世界一の剣士と自称で語るジークフリードという男に出会い、マッシュが筋肉だるまという不名誉なあだ名を付けられたもののワンパンで戦闘は終わり、負け犬の遠吠えと共に中身を奪い去って逃げていくという不毛なやり取りがあったが、みんな無事にここまで来れたのだ。

車掌が言っていた通り、車両の中をくまなく探すと機械を操作するパネルに魔列車の停止方法が書かれたメモがあるのを発見する。

「第1、第3番圧力弁を止め、煙突の横にある停止スイッチを押してください?」

カイエンさんは途中でそれを見ることをやめ、どこか遠くを眺めていた。
動いている車両に登るのは危険と判断し、男性が外のスイッチを、自分が列車に残り圧力弁の操作を担当することになった。

「終わったら手を振って合図してくれよ!!」
「分かった。皆も気をつけて!」

頷き合ってそれぞれの持ち場につくと、壁にあるレバー三つのうち第1と第3、つまり右と左を下へと下げる。
その後すぐに外へ出て三人に手を振り合図と言葉を送った。

「こっちは完了したよ!!お願い!!」

吹き荒ぶ風に煽られながらマッシュが煙突にあるスイッチに手を伸ばした。
これでようやく止められると思った矢先、聞こえてきたのは低い唸るような声だった。

『私の走行を邪魔するのはお前達か!』

それは魔列車本体から発せられたものだと気付いたのは、停止させまいと急加速する列車の動きからだ。
あまりの振動と揺れに耐え切れず、自分はバランスを崩し床に倒れこんでしまった。

その拍子に鞄に入れていた水筒が転がり機械パネルの下に転がっていく。
蓋のコルクがぶつかった衝撃で外れ、ゴボゴボと中身の水が流れ出していった。

「ああ!!せっかく入れた回復の水がッ!!」

拾いに行こうと揺れる列車の中を這うようにして進んでいく途中、いきなり魔列車の速度が減速していく。
理解できない間に魔列車は失速し、響くように声が聞こえてきた。

『お前達は降ろしてやろう…だかその前に、やらねばならぬことがある…』

外にいた3人が戻ってきた後、ホームに着くまで車内で待っていた。
甲高い汽笛とブレーキ音が鳴り響き減速していく列車。無事ホームに到着したようで、魔列車からようやく出る事が出来てほっとする。

「やーれやれ。やっと降りられたぜ。こんな列車とは、はやいとこ、おサラバしようぜ」

腕を伸ばしながらそんな事を言うマッシュに灸を据えようと、横を通り抜ける時に彼の脇腹を人差し指で突き刺してやった。

「っいてぇ!おい、ユカ!!いきなり何すんだよ!!」
「悔い改めなさい」
「だから何がだよ!?」

列車に一番に乗ったのが自分だと、全くもって自覚してないなんて。溜め息を吐き出し呆れながらホームを出ようと進んで行くと、私達が降りた魔列車に次々と人が乗っていくのが見えた。

「やばいぞ!!」
「止めなきゃ!!!」

走り出そうとする自分達だったが、カイエンさんが何かに気付いたようで突然立ち止まる。気になって振り返るとカイエンさんが血相を変えて叫んだ。

「あれは・・・・・・!?ミナ!シュン!!!」
「カイエン!お前の奥さんと息子さんか!?」

確認するように話しかけると頷いて答えるカイエンさん。しかし、その奥さんと息子さんを乗せた魔列車が大きな汽笛を鳴らし出発の合図を始めたのだ。

カイエンさんは2人を追いかけるように後方の列車に向かって走り出す。
前方にいたマッシュがカイエンさんに押しのけられ、自分もそれに巻き添えを食らいホーム横の林へと落下していった。

「待ってくれ!ミナ…!!シュン…」

悲しみに溢れた呼び声が響き、居たたまれない気持ちのせいか黙ったままマッシュと2人で木々の間に身を置いていた。時間を空けてからプラットホームへ戻ると、街頭時計の下で魔列車が向かった方向をずっと見つめるカイエンさんの後姿があった。

マッシュはそんなカイエンさんに言葉少なく話しかけていた。

「森を抜けた場所で待ってるからな…」

返事も反応もないけれど、今はそれで構わない。
自分達が待っているという事が伝わればいいから。
そして、もしもカイエンさんが来なかったとしても…それでも。

今は誰も繕ったような言葉を掛けることなんて出来ない。
悲しみを纏うその背には今は時間だけが必要だろうから----。


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