EP.34
目的地に到着し、森の中に足を踏み入れた途端、そこはさっきとは全くの別世界だった。太陽の光を遮断してしまうほど木々が生い茂り、薄暗く湿ったその場所をさらに奥へと進んで行けば神秘的な湖が広がっていた。

その水に触れると不思議な感覚がする。
カイエンさんがこれを飲むといいと教えてくれたので、手で水を掬い一口飲んだ。

「ここは回復の泉といわれる場所。その水を口にすれば、疲れも癒えるでござる」

そう言われるとさっきまで感じていた疲労が薄れた気がした。
無くなりかけていた水筒をその水でいっぱいにしてから、さらに奥へと進んでいく。

森を進めば進むほど濃くなっていく靄。
辺りが白く覆われ視界が悪くなる中、向こうの景色に何かが映った。
確かめようと向かった先で、いち早く声を上げたのはカイエンさんだった。

「プラットホームに列車!?いまだに戦火に巻き込まれていないドマ鉄道が残っていたとは…」

まさかこの世界に列車があるなんて思いもしなかった。
もしかしたらマッシュが言ったとおり、この世界のどこかに自分がいた世界があるのかもしれない…そう思ってしまう程だった。

プラットホームを歩きながらマッシュが生き残っている人がいないか調べようと提案する。皆も外側から様子を窺い生存者を探していたのだが、いきなりマッシュが列車に乗り込もうとしているではないか。

「おっ!ここから中に入れそうだ」
「マッシュ殿!」
「ちょっと、マッシュ!」

それを止めるカイエンさんと私。
しかし、中を調べなきゃ分からないだろと言う彼は、こっちが喋ってる途中なのに列車のドアノブを開けようとしてる。だから何を言っても結局無駄に終わってしまうのだ。

「マッシュ殿!」
「心配するなって」

颯爽と列車の中に入っていく姿を見ていた自分達だったが、カイエンさんが何かに気付き慌ててマッシュの所に行ってしまった。
追いかけるように中に入ると、焦りに満ちた声で早く降りなくてはと促している。

「出るでござる!!これは魔列車ですぞ!!」

だけど、理由を説明する暇もなく突如として列車が揺れだしてしまった。

「動き出した!?」
「早く出なければ!!」

急いでドアへと駆け寄ったマッシュが開けようとしたけど、彼の力でもピクリともしない。諦めたように溜息をついたカイエンさんがこの列車について話してくれた。

「これは魔列車…死んだ人間の魂を、霊界へと送り届ける列車でござる」

説明が淡々としすぎて実感が沸かないけれど、つまりそれは…。

「…待てよ。ってェことは、俺達も霊界とやらに案内されちまうって事か?」
「このまま乗り続ければ、そういうことになるでござる」

恐ろしい程に冷静なカイエンさんの答えを聞いて、どうしたらいいかを皆で考える。
降りられないとなれば、列車を止めるしかないという結論になり、最前両の機関車へ行くことに決まった。

とはいえ後方にも連結された車両があるので、人を探す目的も兼ねて念の為調べに向かう。するとそこには列車の車掌が乗っていた。列車を止めて欲しいと頼んだが、機関室をくまなく調べればわかると言うだけで止めてくれはしなかった。

一体この列車は何なのか。
それを知りたくて車掌にこの列車の事について詳しく尋ねていたのだが、後方でマッシュが騒ぎ始めていた。

「なんだ、これ?引っ張ってみようか」
「マッシュ殿!いじり回さないほうが良いでござる」

止めに入るカイエンさんの事などまったくお構いナシに、壁にあったスイッチに手を掛けたマッシュ。

「引っ張っちゃったもんね〜」
「な、なんと!?全く、もう…」

慌ててそのスイッチを元に戻すカイエンさんの様子を見て、皆が何となく感じた事を口にしたのはやっぱり彼だ。

「………カイエン。もしかして怖いのか?」
「な、何を仰る!別に拙者が機械が苦手なもんで、なるたけ機械とは関わりたくない、などと考えている訳ではござらぬゾ。いやホントに」

焦ったせいで自ら墓穴を掘ったカイエンさんの独白。
何となくは感じていたけれど、そうだったんだと事実が明らかとなった。

「カイエン…お前、機械が苦手だったんだ」
「うっ!な、何故わかったのでござるか!?」

2人の会話が緊迫した状況を気の抜けたものにしてしまう。
もうここまでくると不安はどこかに捨てるしかなさそうだ。

しかも車掌室を出てすぐに、真っ白な布を被った不思議な存在にも出くわした。

「なんだ、こいつ?」

カイエンさん曰く、自分達についてきたいと言っているらしい。
どうしようかと思っているとそれをきっぱり断るマッシュ。

「何だか少し可哀想……」

自分がそんな事を呟いた途端、目の前のお化けが私の後ろにぴったりとくっついた。

「あ・・・・・・れ?」

ぐるぐる回ると、ぐるぐるついてくる。
そして気付いた。
今、自分は取り憑かれたのだと。

「ど、ど、どうしよう!!!ねぇ!!」
「大丈夫だ!気にすんな」
「中々お似合いですぞ」

確証もない訳の分からないフォローばかりされて、挙句シャドウさんはこっちを見ようともしなかった。
この明るい車内で、しかも見えるお化けに取り憑かれるなんて。
前途多難な魔列車での旅はまだ始まったばかりだ……。


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