逃げたケフカを追いかけ帝国軍陣地を駆けている最中、聞こえて来た声には凄まじい程の怒りが滲んでいた。
「拙者はドマ王国の戦士、カイエンでござるッ!」
その戦い方はまるで鬼神を思わせる気迫があり、押さえに来た帝国兵を次から次へとなぎ倒していく。けれど、いくら強くても敵陣に1人ではあまりに無謀だった。
押されていくその様子を見たマッシュは、すぐにその男性の元へと向かっていった。
「おっと、俺にも少し手伝わせてくれよ!」
「どこの誰かは存ぜぬが、かたじけないでござる!」
防戦に回っていたところを助けに入り、一気に盛り返す形勢。
何処からともなく迫りくる敵兵を三人が蹴散らし、勢いが増していった。
「うおおッ!!毒を流したのはどいつじゃッ!!」
カイエンと名乗った男性は怒りに満ちた形相で敵陣営を暴れていた。
荒ぶる気持ちに呼応してか、マッシュもそのまま一緒に戦い続けていく。
そして敵影が近くに見えなくなった後、呼吸を整えるのと同時に2人は言葉を交わした。
「まことにかたじけないでござる」
「礼には及ばん。俺はフィガロ国のマッシュ。ここはひとまず逃げよう」
増援部隊を懸念しての一言だったけれど、カイエンさんは納得出来ないようで反論していた。
「しかし…!拙者は家族や国の者達のかたきを…ッ」
「ちょっと待った。このままでは多勢に無勢。クズクズしてたら、また敵の大群が…」
杞憂していた通り、敵陣から聞こえて来た多くの声に状況を理解せざるを得なかった。
俺にいい考えがあると話すマッシュの声に頷き、シャドウさんとカイエンさんを交え4人で走っていく。
向かった先にあったのは、この場所に来たとき目に付いた大きな歩行兵器だった。
それを目の前にして“いけるな”とマッシュは頷いている。
「マッシュ殿!この鎧の化け物のような奴はいったい何でござるか???」
「詳しい説明は後で!いいから早く乗った乗った!!」
そう言って無理矢理カイエンさんをその兵器に乗り込ませてしまったではないか。
まさかの展開に驚いていると、今度はこっちに声が掛かった。
「おい!ユカも乗るぞ!」
「え!?こ、これに!?」
呼び寄せられて行こうとするけれど、機械に乗っているカイエンさんが焦りを含ませ叫んでばかりいる。
「マッシュ殿!いったいどうやれば」
「全く、もう。世話が焼けるでござるな…。いけねぇ!俺までうつっちまったよ」
何だかすごくややこしい状況になりそうな気がする。
あたふたするカイエンさんが気になり、助けに行こうと彼の乗る兵器によじ登って前から覗き込むようにして操縦席を見渡していると、酷いとしか言いようのないざっくりとしたマッシュの説明が聞こえてくる。
「いいかー!?手元のレバーを倒すんだ。早く!」
乗ったこともない私やカイエンさんにそんな言い方で伝わる訳がない。だから自分が見た範囲で思った主要のレバーをカイエンさんに伝えてみる事にした。
「きっとこれだと思います」
「こ、これでござるか!?」
すると自分が思ったレバーとは違うのを引っ張るから、機械はガタンと音を立てて大きく揺れ動いてしまった。
「ッえ…うぁあッ!!!!」
後方に傾いた機体のせいで、フロントにへばりついていた自分はひっくり返るようにしてカイエンさんが乗っている操縦席へと転落。
頭を強打し、しかも他のレバーに足がぶつかり大変な事態になっていく。
「どうすればいいでござるか!?それより、おぬし大丈夫か!?」
「イタッ…は、はいどうにか…」
起き上がったものの狭い操縦席に2人が座るから密着度が凄い事になっている。
けれどお互い焦りすぎて、それにすら気付かず、それどころじゃなかった。
「カイエンさん!こっちのレバーを前に倒せばきっと」
「こっちでござるか!?」
「違います!!サイドのじゃなくてこっちの!!」
「あべこべでござるぞーー!!!!!」
パニック状態の2人を乗せた機械を止めてくれたのは別の機体に乗ったマッシュだった。どうにか変な誤作動は落ち着き、レバーで動きを制御することを念頭におけば何とか出来そうだ。
「とにかく俺についてこいよー!」
今乗ったばかりだというのに無理難題を簡単に言うマッシュ。後で文句でも言おうと考えていると、騒がしさに気付いた帝国兵に発見されてしまった。
「そこで何をしている!!」
肉体派のカイエンさんがそれに反応し攻撃をしかけようとするが、今は自分の体ではなく機械の上。行動を伝達するレバーの位置を教えたのだが、頭と操作が合致しないようで速力全開でいきなり突進し始めていく。
「あわわわわ!!止まらんでござるぞーー!!!」
「カイエンさん!!そうじゃない!!もっと傾きを弱く…ぅわああ!!!!」
現れる敵を吹き飛ばし止まらぬ暴走を続けるカイエンさん。
どうにか止めることが出来たのは壁にぶち当たる寸前の所だった。
「よ、…良かった」
「かたじけない…」
「大丈夫かー!?」
「う、うん!どうにか!」
「よしっ。突破するぞ!!」
兵器に乗ったまま敵地を突っ切るように進んでいく。現れる敵兵を威嚇射撃で退かせると、同じく機械に乗った兵士が現れた。敵の機体の接合部分を狙ってレーザーを照射すれば、金属が溶解して機体が傾き倒れていった。その後に胴体部分に追い討ちを掛ければ、バチバチと音を立てて煙が立ち込めていく。
「やった…!!」
これで乗っている帝国兵は爆発前に機体から降りるしかなくなる。そうすればきっと立ちはだかることは無くなる筈だ。敵兵を粗方蹴散らし終え、軍地の端までやってくるとマッシュは機体から勢い良く飛び降りた。
「ここまで来たらこっちのもんだ。ところでここからナルシェにはどうやって行けばいいんだ?」
「ナルシェでござるか…。ここからでは、南の森を抜けるしかなさそうでござるが…」
マッシュの疑問にカイエンさんが答えてくれるが、やはりここでの蟠りがあるのか歯切れの悪いものだった。事の発端であるケフカを探すとしても、今の祖国を離れるのが心苦しいのかもしれない。
その踏ん切りをつける為にドマのお城の様子を見たが、やはり城は敵の手によって陥落していた。気落ちするカイエンさんに対してマッシュは自分の考えを話し始める。
「今ここで1人で残って戦っても勝ち目はない。国を取り返すにしろカタキを打つにしろ体勢を立て直そう」
「しかし…どうやって」
「俺達がいる。それに俺の兄貴もリターナーに組するフィガロ国の国王だ。共に手を組み帝国を倒そう!!」
「そうでござるか……。ありがたい申し出感謝致す。よろしく頼むでござる!!」
「おうよ!!それに俺も毒を使う卑劣な手は気に食わない…。こっちこそよろしく頼むな!」
差し出されたマッシュの手をしっかりと握ったカイエンさん。
悲しい事があったばかりだけれど、それでも前に進む決意をしたようだった。
三人に新しい仲間が加わり4人になる。
ドマを抜け、これから向かうは南にある巨大な森だ---。