EP.13
次の日の朝。
気持ちも新たに手伝いを申し出た自分だったが…。

「おーい、ユカ。これ籠に入れといてくれ」
「はーい。って…え、う、う、ぅあああ!!!」
「何騒いでんだ?」
「だって、その!!いきなり跳ねたから!!」
「そりゃ跳ねるだろ。さっき捕まえたばっかだし」

跳ねる跳ねる。
何かといえば、川から採ったばかりの魚の話。
止まったと思って手を伸ばすと、少し触れただけでいきなり暴れだす。

「ヌメヌメしてて…掴めない」
「そんなとこ持つからだろ。エラの方をこうやって持てばいいんだ」
「…あ、本当だ。簡単に出来た」

早朝から驚きと感動の嵐。
マッシュさんと2人で食料の調達に来たが、まるで先生と生徒だ。

「なぁ、魚とかいなかったのか?」
「これは完全に私の力量不足です…」
「―――………」
「だ、だって売られてるのは全部動かないし!!切って売ってたりするから!」
「じゃあ、あれか。その話からすると」
「すると…何です?」
「捌けないだろ、お前」
「さ、捌いたことくらいありますよッ!何回か…」
「少ねぇな…。しかもそんなとこで負けん気発揮するなよ」
「だって、出来ないって決めつけるから」
「じゃあ、やってもらうぞ」

と、いう流れになったものの思った通り四苦八苦で。

「あのよ…」
「なんですか!?今すごく集中してるんですよ!」
「そりゃ見れば分かるけど。もっとナイフの角度を平行にして」
「平行に…こうですか?」
「ちょっと違う。何ていうかもっとこうやってさ…。あー駄目だ上手く説明出来ん!」

言葉で教えようとしていたマッシュさんが突然隣にやってきたかと思うと、いきなりナイフの柄を私の手ごと掴んだ。

「こんな風に平行にやるんだ。そしたら綺麗に出来る」

握っているナイフを彼が動かしていくと、魚の身はスッーと滑らかに切れていく。如実な経験の差に感嘆し驚けば、マッシュさんは得意気な顔をしたから何だか少し悔しい。

「次は自分でやってみます!」

強調するように意気込めば、握られていた彼の手は自然と離れていった。

「要は慣れだから何回もやれば勝手に上手くなる」
「そうですね」
「じゃあ後は全部捌いておいてくれ。俺は火の準備するから」

そう言い残して別の作業を始めたマッシュさん。
しかし早々に離れてくれて本当に助かった。
ハッキリ言って、さっきの手を握られるというアクシデントは良くない。

免疫があるとかないとかじゃなくて、いきなりあんな事になったら誰でもビックリする。それに、思ってた以上にマッシュさんの手は大きかったから、素直にちょっとだけ、本当にちょっとだけドキっとした。

「幼稚だなぁ…自分って」

ぼそりと呟いた自己評価。
こんな事を考えてないで、今はさっきの感覚を忘れないうちに他の魚も捌く事にする。

腹を切ってちょっとグロい内側を取り出し綺麗に洗って下処理は終了。
それを焚き火の傍に持って行けば、マッシュさんが枝を削って作った串を魚に刺していく。難しそうな雰囲気がしているけど、やらないっていうのはやっぱり嫌だった。

「あの、一本貰ってもいいですか?」
「ん?いいけど。やるのか?」
「やる予定なんですけどその前にちょっと別の事を」

貰った串の先端部分を丸く落とし、それを口に咥えながら髪の毛を一本に纏める。そこに串を刺してグルグルとねじって、ひっくり返すようにして差し込めば、あっという間にまとめ髪の完成。
腰を降ろして串を取ろうとすると、マッシュさんがこっちを見る。

「ユカって結構器用なんだな」
「一応は女ですし。これでも」
「謙遜すんなって」
「意味が違います!!」

空振りしている褒め言葉に呆れながら、見よう見真似で同じ作業を始めれば不恰好だがどうにか串は刺せた。出来映えの違いに残念になるが、味は変わらず美味しい筈だ。

「いびつだけど、これなら大丈夫かも」
「何がだ?」
「きっとバルガスさんもマズイって言わないだろうなって」
「だな。まぁ多分余計な事は言うだろうけど」
「その時は目を瞑って食べれば大丈夫だって言ってやります」
「っはは!それいいな!」

帰ってくることを疑わず、戻ってくる事を信じていたからこそ笑っていられた。

だけど。

戻って来ない理由や、バルガスさんの考えを解りもしなかったからこそ、そういられたんだと気付いたのは次の日の事だった---。


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bkm
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