好きな人は兄貴じゃないって、ユカが俺にハッキリ言った。
今まで恋愛感情があるってずっと思ってたのに、ここまで断言されたら信じるしかなくて…。
ユカが兄貴を好きだって勘違いしたのが、“いつ何処で”っていう質問には答えられるけど、どう勘違いしたのかを聞かれたら答えられなくなる。
だって兄貴を見つめるユカの眼差しがそうだったから俺はそう思っただけだ。
切なそうで、気持ちが溢れるような顔だったから、恋をしてるんだなって思った。
なのに違うっていうなら、あれは一体なんだったんだ。俺のただの見間違いと勘違いで、そうじゃなかったってだけなのか?
でもそんな感じはしない。
だって普通の仲間に…想っていない相手に向けるような視線じゃなかったんだ…。
じゃあユカは兄貴と一体どんな話をしてたんだろう。あんな表情になるような内容、話を聞いた後に顔を塞ぎながら落ち込むような事って何なんだよ。
分からない。
分かんないけど、それでも俺にとって兄貴を想っていないっていう言葉は救いだった。
今まで俺を隔てていた鉄壁が崩れてなくなった位の事実。兄貴じゃないならずっと心に引っかかってた変なわだかまりも考えも関係なくなる。
だからこれからは無駄に気を使わず普通に出来ると思ったんだ。
前よりたくさん相手と話をしたり。
今以上に一緒に笑いながら飯を食べたり。
当たり前のように隣り合って馬鹿みたいにはしゃいだり。
それから―――。
最近、特に思うようになってることがあるんだ。
相手に触れたい…って。
俺より低い位置にある頭でもいいし、サラサラの黒い髪でもいい。あったかい手と繋ぎ合いたいとか、もっと欲を言えば…俺の胸の中にすっぽりと納まっちまうその体を抱き締めたい。
強く強く抱きしめて、相手も俺の背中を抱き締める…そんな感じで。
思っていても出来ない衝動に駆られて、時々惑う俺の心と体。
一年ぶりの再会を果たして泣いていた相手を抱き締めたことや、瀕死になった時のユカを無意識で抱き締めたこと。
反対に何かを意識して動けなくなることもあった。
だからユカの兄貴を否定する言葉が俺に響いたんだ。
「いやも何も無い!勘違いしてるのはマッシュでしょ!私は一度もエドガーの事が好きだなんて言ってない!!」
だけど、その後聞いた言葉にショックを受けたのは間違いなかった。
「エドガーは大事な仲間!特別な感情なんて持ってない!だって私には好きな人がい……ッ…」
ずっと勘違いしてた兄貴じゃないってようやく分かったと思ったのに、別の誰かが好きだと知った。喜びの後の苦しみは知る前よりも辛くて、見えない厚い壁みたいなものが俺とユカの間にあるみたいだった。
だけど――。
そんなものは結局自分が作りだしているに過ぎなくて、在るとか無いとか良い悪いなんて頭で考えるような理屈じゃないんだって、ハッキリと認識してしまう出来事が起きようとしていたーー。