あの日。
俺達の住んでいた世界が崩壊した――――。
意識が戻った俺の目に映る景色は、以前の世界とは全くの別物に成り果てていた。
「そ…んな・・・嘘だろ…」
まるで割れた硝子のようにバラバラで、剥がれた大地が大きな塊になってあちこちに転がっていた。自分が目を覚ました周辺をくまなく探したが、仲間の姿はどこにも見当たらない。散り散りになった皆が何処にいるのか検討もつかないまま、俺は痛む体で歩き出していく。
壊れた世界を重い足取で進んでいる時、俺の頭に浮かび続けるのはユカのことだった。
今どこにいるんだろう。
仲間が近くにいるだろうか。
1人だろうか。
それとも飛空挺から落ちて―――。
「ッくそ!!やめろ…!!そんな事考えるな…ッ」
嫌な想像をかき消し、前だけを見て進んで行くけど、夜な夜な俺はうなされる。
飛空挺から落ちていくユカの姿。彼女を助けようと腕を伸ばしたけど、届かず落下していった記憶が毎晩鮮明に夢になって出てくるんだ。
どうしてもっと早く手を伸ばさなかったのか。
なんでもっと早く動けなかったのか。
ユカを助けようと自分も追いかけるように空中に飛び出したけど、強い風が行く手を阻み、何も出来ないまま離れ離れになった。
いくらモンスターに勝てたって、修行して強くなっても守りたいと思った相手を守れもしない自分が情けなくて。
だからこそ早く見つけたかった。
1人なら不安な筈だ。
心細い筈だ。
きっとこの世界のどこかで……泣いてるはずだから。
歩いて行けるところ、泳いで渡れる場所や村や町は全部行って、その度にユカや兄貴、そして仲間達のことを捜した。今より強くなるために修行もして、色々な場所にも行ったんだ。
だけど、全然見つからない。
見覚えのある場所ですら大地は剥き出しになり、地形が変わり陸は分断され、生い茂っていた筈の緑が日に日に消えてく。
仲間1人見つけられず、世界を旅し続けてどれくら経ったんだろう。
どんなに探しても、いくら探しても見つからない。
世界に差す光も、自らを照らしてくれる光もなくて、心が折れそうになった。
だけど、首に掛かるコインを見る度に思い出すんだ。
昔の自分の事、それからユカとの記憶や思い出。
笑っていた時の事や、言い合いをした事、目を閉じれば自分を呼ぶ声だって蘇る気がする。過去を振り返らないようにしているのに、今はその記憶が俺を支えてくれる。
今……もしも隣に居てくれたら、怖いものなんてないのに。
希望なんてなくても大丈夫なのに。
思い出に縋る事もないのに。
「ユカに……会いたい……」
名前を呼んでほしい。
大丈夫って言って欲しい。
俺の背中を支えて欲しいんだ。
だからこそ。
「――…諦めてたまるかよ」
俺は記憶なんかじゃなくて本物のユカに会いたいんだ。
だから諦めない。
落ち込んでる場合じゃない。
止まってる場合じゃないんだ。
「絶対に見つけてみせる」
ユカが誰を想っていようと、それでも構わない。
俺が彼女を好きなことも、思いを変える事も今更出来ないんだから。
だから俺は俺がやりたいことをやる。
また昔みたいに笑いあって、楽しい時間を過ごしたい。
それを取り戻すために歩き続けるんだ。
諦めず1人で旅を続ける日々。
出会えない事に何度落胆しただろうか。
それでも希望と願いを捨てずに毎日を過ごし、もうすぐ一年が経とうとしていた。
世界が崩壊し、色々なものが荒廃してるけど、それでも人々は消えそうな世界でどうにか生存してる。
だからこそ、自分が生きているように、彼女も皆もきっと生きてる。
ずっとそうやって信じながら辿り着いたツェンの町。
重なった記憶に蘇るのは、崩壊前のこの町での出来事だ。
確かこの辺りで遊んでいた子どもを助けたんだと思い出を辿っていた時だった。
全てを叩き壊すかように上空から降り注いできた光。その次の瞬間、物凄い音と大きな地震が町を襲った。目の前に建っていた大きな家は今にも崩れ落ちそうになっているのに、女の人が無謀にも中に入ろうとする姿が見えた。
「やめろ!!よせ!!」
女性を声で静止させ、落下してきた屋根を自らの腕だけで支える。どうにか危機を回避する事が出来たのも束の間、倒壊すると分かっているのにそれでも中に入ろうとする女性の顔には見覚えがあった。
「もしかして…あの時の!?」
「あなたは…!」
「まさか家の中に……」
「息子がいるんです!!!」
いったいどうすればいいんだ。
もしも自分がこの手を離せば間違いなくこの家は潰れる。
だけど、もしこのまま支えていても、いつか自分の限界が来る。
どうする事も出来ず力の限り支え続けていた時、俺を呼ぶ声が聞えた。
「マッシュ!!!!」
苦悶の表情の中、相手の顔を見ればそこに居たのはセリスだった。
俺を助けようとする彼女に今の状況を伝え、中にいる子どもを助け出してくれと伝えた。
「あまりもちそうにない…早めに頼むぜ……くっ…」
頷いたセリスは勇敢に1人で家の中に入っていく。
子どもと仲間の命。
それを守るためにも、絶対に戻ってくるまで諦めない。
段々と負荷が体全体へと響き渡り、自分の腕が震え始める。
それでも仲間を信じて待ち続けていると、子どもを助け出したセリスが戻ってきた。
「まったぜ…!!」
家の近くから離れたのを確認すると、俺は腕を離し同時にその場から飛び退け危機を脱した。
「マッシュ!生きていたのね!」
「当たり前よ!たとえ、裂けた大地に挟まれようとも、俺の力でこじ開ける!」
仲間との再会に喜び、声高らかにそういった。セリスは皆が死んだと思っていたようで、希望を失いかけていたと話した。
「諦めちゃいけないわね。いきているかもしれない!皆を探して…そして…」
「ああ。ケフカを倒し、平和な世界を取り戻す!!」
2人で頷きあって俺達は仲間を探す旅に出る。
1人じゃない心強さは仲間がいるからこそなんだ。
セリスに会えたことが、俺にとって益々希望を与えてくれる。
きっと、きっと生きているはずだ。
絶対に会える筈だ---。