小説えーすりー | ナノ

いち


兵頭九門が変だ。

「兵頭…」

「っ、 」

今日君一体何があった。たった今、俺の家でゲームしててふとキスしたいなーって唇を合わせたらガチガチに体を固くさせたのだ。目が点。無言。

おいおい、そんな反応したことなかっただろーが。

ちなみに抱きしめてみても同じ反応だった。大問題だ。ハグは兵頭からウェーイって軽くしてきたのに。手を繋ぐのも駄目だったらどうしよう。

「……。」

「おわっ」

手に持っていたコントローラーを奪って空いた手を握ってみた。すごくびっくりしたらしい。

何をしても意識しない兵頭が。恋人らしいことしても気付かずにケロッとしてる兵頭が!

「…なぁ。」

「な、なに?」

目を合わさずにカチコチになってるだと。

顔を近づけて表情を伺おうとしても一向に逸らされるばかり。挙句の果てに逃げようとまでしてる。そこから考えれることはただ一つ。

「浮気?」

「はぁっ?!」

やっと目が合った。大きな目をもっと大きくさせて固まっている。いきなり顔を向けたからすごく近い。それに気づいたら離れやがった。

「…へぇー。」

「なんっでそうなるんだよ!浮気なんかしてない!マジ!」

「…ほーん。」

「え?!ハルっ、ほんとに違うから…!」

この必死さが余計に浮気男みたいになってる。言われなくても浮気しないって分かってるけど。からかいがいがあって面白い。

「んじゃあキス。」

「へっ?!」

「キス、してよ。」

また逃げようとしたから腰も引き寄せた。う、とか、あ、とか言葉を詰まらせてどんどん顔が俯いていく。

原因は俺なのか?俺が悪いのか??あーもうこいつがわからん。こんなことしてもヘラヘラしてだだろうが。生娘みたいな反応しやがってコノヤロウ喰ってやろうか。

「あほ。」

「っんむ!」

無理矢理顎を上げて唇に噛み付いた。今日の兵頭は兵頭じゃない。俺の中で小さな罪悪感が浮かび上がってくる。はーっと息を吐いて震える体を抱き締めた。

「はっきり言え。」

「え…?」

「嫌ならはっきり言っていい。」

震えてたらからかうこともできない。キャパオーバーしちゃってるじゃんか。

「嫌、じゃない…けど」

遠慮気味に俺の背中に手を回した。胸板に顔を埋めて喋るから声がこもって何も聞こえない。


「最近、カズさんにもうえっちしたかって聞かれて…」

「…ん?」

「オレ全然そういうの考えたことも無くて、その後色々言われて頭の中パンクしそうだったんだけど、このままじゃダメだってわかって…」

「うん…?」

「万里に男同士のえっち教えて貰って、」

「え、」

「じゅ、準備、してきた…」


…は?




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